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幼い頃から思い描いていた夢があった。
薄暗い森から垣間見える抜けるような青い空を見上げながら、思い描いていた夢。
二羽の白い鳥が頭上を飛んで行くのを見送る。
ディアドラは大きな溜め息をついた。
二羽の小鳥。
親子だろうか、兄弟だろうか。
それとも―――。
持っていた古い絵本を胸にかき抱いた。
ディアドラのたった一つの宝物の絵本。
物心付いたときから祖母と暮らしていた彼女の、唯一の楽しみが絵本を読むことだった。
祖母から毎日呪文のように聞かされる、ディアドラの運命を縛る言い伝え。
その悲しい運命を受け入れながらも、外の世界に憧れるのは、一冊の古い絵本があったからだった。
攫われたお姫様を王子様が助け、最後に二人は幸せな人生を歩む。
一日に何度も、繰り返し読まれた絵本。
その絵本を開くたびに、夢のようにきらめく世界が目の前に広がる。
ディアドラは絵本のお姫様を自分に当てはめ、王子様に恋をしていた。
――いつか、わたしの許にも王子様が現れるかもしれない
――そして、この森から、運命からわたしを連れ出してくれるのだ
絵本を閉じたとき、ディアドラはうっとりとした表情で目を瞑る。
一面の花畑で、顔のぼやけた王子様が、綺麗なドレスを着た彼女に手を差し伸べる。
伸ばしたディアドラの手が王子様のそれと重なり合い、二人は幸せに暮らすのだ。
さわさわと木々のざわめきではっと目を開ける。
そこには、つい先ほどまで思い描いていた一面の花畑もないしも王子様もいない。
毎日眺めている現実が広がっているだけだった。
ディアドラは大きな溜め息をついた。
――そんな、夢のような話…
それでも、と膝の上に載せた絵本を見つめる。
一粒の涙が、古い絵本の上にぽたりと落ちた。
幸せな夢を見るくらいは、良いでしょう?
fin