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『 ファイアーエムブレム聖戦の系譜 』と『 Zill O'll 』中心の二次創作テキストBlog
「 ト リ ソ ラ 」は、原作ファンによる非公認の二次創作テキストBlogです。
版権元及び関係者様各位とは、一切関係ありません。
また、版権元に対する権利侵犯・不利益を目的とするものでもありません。

Japanese Version Only
since : 2007.02.05

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 赤い夜 

夜は、未知の世界だった。
父とルルアンタと旅をしていた頃は、野宿がほとんどで、
宿屋で休める日は三人で夕食を囲み、そして就寝。

夜にも夜の世界があると知ったのは、冒険者になってからだった。
いや、厳密に言えば、恋をしてからだった。

宿屋の一室のバルコニーから、夜の世界を眺める。
夜空に浮かぶ月や星は、あの頃眺めていたのよりも見えにくいな、と思った。
しかし、夜の風が肌に心地良い。
ふわふわと、夜風が胡桃色の髪を撫ぜる。

ふと、女の笑い声が聞こえて下に目をやる。
「…あ。」
ゼネテスだ、ユラテは心の中で呟いた。
咄嗟に、しゃがみこんで身を隠す。
バルコニーの隙間から窺うと、ゼネテスとその隣には質素ながらも着飾った女性。
(誰だろう…。)
腕を絡め、親しげに話すあの女性は。
胸の奥がもやもやする。

二人の姿を目で追う。
胸の奥のもやもやは、止まらない。
やがて二人は、宿屋前を通り過ぎ、広場の方へと消えていった。
(追いかけよう。)
立ち上がり、部屋の中へ駆け込んだ。

「あれ?ユラテ、どこに行くの?」
ルルアンタが尋ねる。
「え、えっと、ちょっとお散歩!」
「こんな時間に?――早く帰ってきてね。」
「うん!」
逸る気持ちを抑えられない。
嫌な胸の鼓動を感じながら、ユラテは宿屋を飛び出した。

 

広場を過ぎた、スラム街。
昼間の様子とはうって変わって、夜の姿は灯りが一面を照らしている。
光と闇のコントラストが、夜の町並みとは違う印象を与える。
その中を、軽装の少女がふらふらと歩く姿は異様だった。
酔っ払った男達が、好奇の目を向ける。
ユラテはその視線を感じつつ、ゼネテスの姿を探した。

「あら。可愛い子ね。こんな夜中にどうしたの?」
一人の女性に声を掛けられた。
女性の後ろには、数人の女性がいた。
どの人も、赤い口紅をつけ着飾っている。
同性の人間だという安心感から、ユラテはほっと溜め息をついた。
「人を探しているの。」
「だあれ?お父様かしら?」
くすくすと後ろの女性達が笑う。
ユラテは微かに首を傾げた。
「…ゼネテス、っていう人。」
「あなた、ゼネテスの妹さん?」
首を振る。
後ろの女性達は、相変わらずくすくす笑っている。
目の前にいる女性も、赤い口紅を曲げて艶やかな笑みを浮かべている。
バルコニーから見下ろした、赤い口紅を思い出した。

――嫌な感じ。

ユラテはその場から立ち去った。
耳からは女性達の笑い声、脳裏からはあの赤い唇が焼きついて離れなかった。

 

宿屋に戻ると、ルルアンタは先に眠っているようだった。
ユラテのために、サイドボードのランプだけが灯されている。
ほっと大きな溜め息をついた。
音を立てないようにベッドへと近づき、もぐりこんだ。
「おかえり、ユラテ。」
一瞬、どきりと心臓が飛び跳ねた。
「あ、ごめんね、起こしちゃった?」
ルルアンタがベッドから起き上がる、衣擦れの音がする。
「ううん、今寝ようとしてたとこ。」
そっか、と力なく答える。
暗闇の中で、ルルアンタは気配だけで義姉の異変を察知した。
「…何かあったの?大丈夫だった?」
ユラテは慌てて明るく振舞う。
「なんにも!気持ち良かったよ!」
「そっか。良かった。」
ルルアンタの言葉に、ほんのりと胸が痛む。
泣いてしまいそうだ。
「ルル。一緒に寝ていい?」
「うん、いいよ!」
ユラテはルルアンタのベッドにもぐりこんだ。
中の暖かさが、冷えた身体を温めていく。
「おやすみ、ユラテ。」
「おやすみ、ルル…。」
目を閉じると、ゼネテスと赤い口紅の女性が浮かんだ。
心だけは、温まることは無かった。

 

ぺたぺたと額を叩かれ、ユラテはうっすらと目を開けた。
「…んん~~~?」
かすれた声で、眉間にしわを寄せ、瞬く。
ぼんやりとした視界の中に、人間の姿が見えた。
もう一度、ぺちんと額を叩かれた。
「こら、ユラテ。そろそろ起きるんだ。」
その声に、まどろんでいた頭が一気に覚醒する。
「――ゼネテス!?」
がばりと起き上がると、確かにそこにはゼネテスの姿があった。
よ、と右手を上げて軽い朝の挨拶に、ユラテは、おはよう、と呟いた。
「下でルルアンタが朝メシの用意して待ってるぞ。」
くしゃくしゃと寝癖で跳ねた髪を撫で、ゼネテスが背を向けた。
「―――待って!」
「ん?」
思わず引き止めてしまった。
昨夜のことを言うべきか、どうしようか。
「………。」
黙ったままのユラテに、ゼネテスが首を傾げる。
「どうした?」
「……なんでもない。すぐに行くよ。」
「そうかい、じゃあ、下で待ってるよ。」
右手をひらひらと振って、ゼネテスは部屋の扉を閉めた。
ぱたん、という音が寂しく響いた。

一人になった部屋。
ユラテは後ろに倒れ込んだ。
ふかふかの枕に、頭がずぶずぶと沈んで行く。
昨夜から、心も沈んだまま。
天井をじっと見つめる脳裏に、赤い口紅の女性が浮かぶ。
ゼネテスの腕に手を回し、寄り添い歩く姿。
楽しそうな笑い声。
くすくすと陰で笑う声。
固く目を閉じ、その姿を追い払うように頭を振る。
「……忘れよう。」
そう呟くと、ユラテはベッドから起き上がった。

 

fin



あとがき↓

梅之助んちの旅先女主・ユラテと初登場のゼネテっさんでした。
無駄に長いお話でした。いったい何が書きたかったのか…。
夜って怖い(これを書いたのが深夜2時。)



08.03.11(08.03.14修正)

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