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唇を重ねると、ふと過ぎる不安の影。
離れた時、セリスは不思議そうな面持ちでユリアの顔を覗き込んだ。
「…ごめん、ユリア。いきなりだったね。」
いいえ、と少女は首を振った。
「そんなこと、ないです…。」
それでも、ユリアの瞳は不安げな色を隠せない。
ふわりと微笑みセリスが問う。
「どうかしたの?」
「………。」
ちくり、とほんの少しだけ、胸が痛んだ。
彼の微笑みは、声は、どうしてこんなにも優しく響くのだろうか。
まるでひだまりのように暖かい。
閉ざそうとしていた心は、いとも簡単にこじ開けられてしまった。
「わたし…怖いんです…。」
「うん?」
自分の両手のひらを見つめる。
「…抗えない、なにか、大きなものが…あるんです…。」
――わたしの中に。わたしたちの間に。
その言葉を吐き出す代わりに、ユリアは両手を強く握り締めた。
セリスに恋心を抱くようになってきてから、心の中に巣食う影。
想いが強くなるの毎に影も大きくなっているのがわかる。
しかし、その影の正体がわからない。
だから怖い。
「…ユリア。」
セリスは少女の細い身体を引き寄せた。
華奢な両肩が震えているのが、痛々しい。
胸元に顔を埋めたユリアのすすり泣く声が聞こえてきた。
小さな身体の中に、いったいどれほどの恐怖を抱え込んでいたのだろうか。
「ユリア。僕が守るよ、必ず。だから泣かないで。」
抱きしめる両手に力がこもる。
「…セリスさま…。」
抱かれ胸の中で、その名前を繰り返す。
この人はひだまりのように暖かいのに、どうして、胸の中にある影は拭えないのだろう。
震えが止まらないのだろう。
こんなにも好きなのに。
「…キスしてください、セリスさま…。」
涙で濡れた紫水晶の瞳が、セリスを見上げる。
「ユリア…。」
ゆっくりと近づく。
重なり合った唇は、やはり影を拭うことは無かった。
それでも、何度も何度も唇を重ねた。
fin