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ギギギ、と鈍い音をさせて教会の扉を開けて、男が入ってきた。
しゃがみこんで小さな花壇の手入れをしていたエアリスがゆるゆると立ち上がる。
また今日も、来い・いやの押し問答が始まるのか、と振り返ったが、
入ってきた男を見て目を丸くした。
ギギギ、と鈍い音をさせて教会の扉を開けて、男が入ってきた。
後ろ手で閉めている間に、花壇に向かっていた少女が立ち上がり振り返った。
男の顔を見て、エアリスはまたも目を丸くした。
「コンニチハ。」
「あら、今日はレノなのね。」
ぱちぱちと瞬いた後、少しだけ笑ってみせる。
そして、ぱたぱたと軽い足取りでレノへ近づく。
一方レノは、気だるそうな足取りで互いの距離を詰める。
「昨日ね、珍しく、ツォンが来たの。」
「ふーん。」
「レノは、別のお仕事だったの?」
「そ。」
「ふーん………。」
かしかし、と頭をかいていたレノだったが、妙に長い沈黙が気になった。
「…どした?」
目の前にいる少女は、小首をかしげて顎には手をやり、レノの全身をまじまじと眺めていた。
「…なんだよ。」
両手をポケットにつっこんで、エアリスの目線と合うようにかがむ。
うーん、と唸った後、彼女はぽつりと呟いた。
「スーツ。」
「は?」
「ツォンは、ぴしっと着こなしてるのにね。」
レノの頭の上に、黒髪の上司の姿が浮かぶ。
まるでスーツ着たマネキンがそのまま人間になったかのような、上司の姿。
ネクタイを緩めている姿が想像できない。
一方レノといえば、スーツの前のボタンは閉めず、中に着たシャツもだらりと着崩した格好。
ネクタイなんて、入社式の時以来締めていないような気がしてきた。
くすくす笑うエアリスの声に、はっと我に返る。
「もっとちゃんと…。」
エアリスの手が伸びた。
「ボタンも閉めて…。」
指先が器用にシャツのボタンを、ひとつひとつ閉じていく。
「スーツも、ちゃんと着て。」
「おいおい…。」
襟元を引っ張られ、前のボタンを閉められる。
息が詰る気がした。
抵抗する間もなく素早い手つきで、きちんとした身なりのレノが完成した。
そしてまた、レノの頭から足まで、全身を眺める。
首元が慣れないレノは、身動ぎをする。
「うーん。」
「…満足デスカ…?」
唸った後、エアリスは笑顔でこう言った。
「なんか、ヘン!」
「…そうですか。」
がくり、と脱力したレノが窮屈そうにシャツの襟を緩めた。
シャツのボタンもスーツのボタンもすべて外し、だらんとしたいつも通りの格好に戻る。
ふう、とひとつ大きなため息をついた。
その動作を見ていたエアリスが、ぽんと手を叩いた。
「ネクタイがなかったから、ヘンだったのかも?」
「勘弁してクダサイ、と。俺は、この格好が一番いいの。」
目を瞬かせながら、エアリスがレノの全身を眺める。
「…そうね。それが一番、似合ってるわ。」
くすくす笑うエアリスを、引き寄せる。
驚いた彼女が見上げる。
「ツォンさんと比べられるのは、イヤだぞ、と。」
そしてそのまま、キスをした。
fin