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どんよりとした灰色の雲は、しばらくすると予想通りの雨をもたらした。
ミイスからエンシャントへ向かう途中のことだった。
どしゃぶり、というほどでもないその雨は、大木が密集している下で休むことが出来た。
日も暮れかかっていた頃だったので、その日はそこに一泊することになった。
焼けたミイスの煙がもたらした雨かしら。
一人ぽつんと佇んでいるルインは、空を見上げていた。
灰色の雲は、旅立った日、最後に見た故郷と同じ色をしていた。
二つの景色が目の前に重なり、脳裏に広がる。
「…っ!」
その直前、ルインはかたく目を閉じ、首を振った。
雨に濡れた金の髪から、小さな滴が散った。
「…。」
セラは辺りを見回した。
少女の姿が見えない。
すぐ戻ります、と声をかけられてだいぶ経つことに気が付いた。
隠れ里ミイスで出会った、親友の妹。
共に旅立って、まだほんの数日しか経っていない。
その中で交わした会話なんてほとんど無い。
第一印象は「大人しそうな女」だったし、無口な方なのかもしれないと思っていた。
セラ自身、うるさく喋られるのは嫌いなので居易かった。
そのせいだろうか。
他人に興味を示さない自分自身に、『親友の妹だから』という妙な保護意識が微かにある。
故郷を失った彼女への同情だろうか―――。
いや。
今はそんなことを考えている場合ではない。
セラは雨の中を歩き出した。
ルインの頬を冷たい雨が打ちつける。
その雨に混ざり、暖かいものが頬を伝う。
涙は次から次へと溢れ、そして頬を伝って流れ落ちる。
雨のように、止むことがない。
ミイスでの思い出も、父や兄の姿も、どんどん溢れてくる。
そっと、両手で顔を覆う。
声を殺して泣いた。
その様子を見ていたセラは、踵を返した。
少女の涙を、初めて目にした。
彼女の心の内を見たような気がした。
すみません、と言って戻ってきた頃には、少女の目に涙はなかった。
何事もなかったかのように振る舞う仕草は、いつも通りの姿だった。
しかし、微かに赤い目が、先ほどの彼女の様子を伺わせた。
夜になると、雨はぱたりと止んだ。
セラは、大木に寄りかかり眠る少女の顔を見た。
ぱちぱちと燃える焚き火に照らされた、白い顔。
普段は大人びた顔つきだが、こうして見ると、どことなくあどけなさが感じられる。
ロイに似ているな、とも思った。
その時、少女の閉じられた目から一筋の涙が流れた。
するするとゆっくり流れた滴は、頬を伝い、少女の抱えた膝の上に落ちた。
「………。」
セラは、小さく息を吐いた。
細すぎる彼女の身体に降りかかった運命。
大切なものを一瞬にして奪い去った、女の姿が浮かぶ。
空を見上げると、雲の隙間から小さな星の輝きが見える。
静かな夜だった。
fin