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ガラス細工のようだ、とアレスは思った。
紫銀色の長い髪が風に靡く様子。
少し俯いた少女の白い頬に、微かな影を残している。
紫水晶のような透明感を醸し出している瞳は儚げで、薄桃色の唇はきつく結ばれている。
淡い色のゆったりとしたローブで全身を包み込み、
袖や裾から見える細い腕や細い足も、白磁のような肌だった。
少女――ユリアには、なにか独特のものがあった。
初めてユリアを見たとき、アレスは彼女の容貌、佇まい方、その雰囲気がガラス細工のようだ、と思った。
触れてしまえば、指紋で汚れてしまうかもしれない。
壊してしまうかもしれない。
消えてなくなってしまうかもしれない。
それでも、とアレスは思う。
少女が、鈴の音のような声を響かせ花のように微笑む姿は、愛しい。
遠くからではなく、近くで、もっと側で、隣で見ていたい。
「ユリア。」
名を呼ぶと、振り返った少女は弾むように駆けてきた。
ほんのりと頬を染め、陽の光に照らされた表情は眩しく輝く。
「アレス。」
ユリアの白い手、細い指先がふわりとアレスの胸元に触れる。
見上げる紫水晶の瞳には、アレス自身しか映っていない。
それが嬉しい。
目の前にいるユリアの姿を、アレスは目を細めて見つめていた。
ちょうど逆光になっているユリアには、彼の表情がわからない。
「アレス?どうかしましたか?」
涼やかな声で、愛らしく小首を傾げて問う。
いや、とアレスは笑った。
胸元に伸びている手を握る。
ユリアの腰に手を回し、引き寄せると、ユリアの頬がいっそう朱に染まった。
紫銀の髪に口付けを落とす。
「ア、アレス…なんだか様子がおかしいです。」
「なんでもない。」
朱色に染まった絹のような頬に、白い肌に口付けを落とす。
「なんでも、ないって…。」
ユリアは恥ずかしさで離れようと身をよじるが、男の力には敵わない。
ガラス細工に指紋を付けていくかのように。
何度も何度も、口付けを落とす。
fin