[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
小鳥のさえずる声が聴こえてくる。
一本の大きな木の前で立ち止まりその木を見上げると、薄桃色の小さな花と花の間に、若草色の小鳥を見つけた。
ネメアの口元に、思わず笑みがこぼれる。
深呼吸すると、芳しい花と瑞々しい木々の香りが鼻をくすぐる。
別世界かと思ってしまうほど、「賢者の森」は春という季節を謳歌していた。
無数の花びらが舞い落ちる。
掴もうと手を伸ばしたが、風に弄ばれている花びらは指の間をさらりとすり抜ける。
掴むのを諦めると、手のひらの上にふわりと落ちる。
まるでこちらが弄ばれているようだ、とネメアは苦笑した。
手のひらの花びら。
はらはらと舞い落ちる花びら。
ネメアは、一人の少女の姿と重ねていた。
気配に振り返ると同時に、少女――アローカナの凛とした声が響いた。
「ここにいたのね……どうしたの?」
ああ、とネメアが手のひらを差し出す。
「綺麗なものだな。」
目を瞬かせたアローカナは手のひらの花びらとネメアを交互に見、そして吹き出した。
「なんだか、似合わないわ。」
「…そうか?」
木を見上げる二人の間を、花びらが舞い落ちてゆく。
幻想的なその景色は、二人から言葉を奪っているかのようだった。
寄り添うお互いを意識するには充分すぎるほどの静寂。
その静寂を破ったのは、アローカナだった。
「ネメア。」
名を呼ばれて少女を見下ろしたネメアの心臓が、小さく跳ねた。
蒼い瞳が、真っ直ぐにネメアを捉えている。
アローカナがそっと手を伸ばす。
指先は、ネメアの胸に掛かっている金色の髪をさらりと撫でた。
「花びら。」
付いてたわ、と言いながら、その一枚の花びらとネメアを重ねるようにして見る。
金色の獅子と薄桃色の花びら。
「意外と、似合ってるかも。」
ふわりと彼女が微笑む。
その舞い落ちる花びらのような微笑みを見た瞬間、ネメアはアローカナの手を取っていた。
「…ネメア…。」
ネメアはその指先に、そっと口付けた。
普段は表情を変えないアローカナも、微かに頬を染める。
「! ネメ…」
アローカナの抗議の声は、ネメアの声にかき消された。
「共に行こう。」
握っている彼女の指先が、微かに震えている。
頬を染めて、蒼い瞳で真っ直ぐにネメアを見つめている。
ほんの少しの間を置いて、アローカナは凛とした声で言った。
「ええ。一緒に…。」
ネメアがそのまま、アローカナの身体を引き寄せる。
二人の未来を祝うかのように、花びらは舞い落ちる。
fin