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目を合わせることが出来ず、アイラは視線を落としてばかりいた。
溶けてしまいそうなほどの感覚に眩暈がする。
頬はすでにほんのり薄ピンク色に染められていて、
今、彼女がそんな状態に陥っているのは、唇に薄く塗られた紅のせいだった。
隣にいるノイッシュに気づかれないように、そっと唇に触れてみる。
今日この日、何度も何度も触れている指先の感触はいつもと違った様子で、
そのたびにアイラの胸の鼓動を余計に高鳴らせた。
「…どうかしましたか?」
ノイッシュの声に、アイラは慌てて唇から手を離した。
「えっ、あ、いや、なんでもないよ。」
そう言って笑顔を見せても、頬は相変わらず紅潮していて、視線は相変わらず交わらない。
「大丈夫、とってもかわいいわよ。」
ここに来る前に、彼女たちからそう励まされた。
そうは言われても、アイラの胸の鼓動は、
彼女たちに半ば強制的に紅を塗られている頃から始まっていたもので、
ノイッシュの隣に並んでからも治まることを知らなかった。
ノイッシュとアイラの間に、何の進展も無い。
そんな話題がきっかけで、アイラは今、この状況に置かれているのだが、
「これから何か進展があるのでは」という期待よりも、不安の方が大きい。
今まで何も無かったことに不満はなかったが、多少の焦りはあったかもしれない。
楽しそうに、嬉しそうに相手の話をする彼女たちを、羨ましく思ったこともある。
だけど、それでも―――。
「―――アイラさま。」
「え、」
あ、と言いかけた唇が、続く言葉を息と一緒に飲み込んだ。
視界に入ったのは、ノイッシュが伏せた睫毛、金色の髪の毛。
耳に入ってくるのは、そよそよと流れる風の音、胸の鼓動。
一瞬のことのはずなのに、とても長い時間のように感じられて、
はたはたと何度か瞬いた後、視界には、真っ直ぐに自分を見つめているノイッシュの顔。
「すみません。」
照れくさそうに頭をかくノイッシュの頬は、ほんのり紅潮している。
その色を、かわいいと思った。
「なんだか様子が変だったので…。」
「………。」
「今日のアイラさま、いつもよりもかわいらしく思えたので…。」
アイラはそっと自分の唇に触れた。
指先が震えている。
微かに熱を持った唇は、ほんのりと薄紅色に染まっている。
この唇から溶けてしまいそう、そう思った。
fin