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足元から聞こえてくる雪を踏みしめる音は、一人歩いているエアリスの慰めになったが、
陽も沈み、気休め程度の街灯が灯った空間では、ただ儚く消えてゆくのみだった。
規則正しく吐き出される白い息も、留まることなく消えていった。
立ち止まり、上を見上げる。
真っ黒い空を舞うように降りてくる、白い雪。
朝から降り続いていた雪は、辺り一面を真っ白く染め上げても、まだ降り止まない。
冷たくなった手で口元を覆い、冷たい空気を吸い込んでから、はぁ、と息を漏らす。
白い息は、雪とは違い、立ち上ってもすぐに消えてしまった。
上を見上げているエアリスは、思わず立ち眩んでしまいそうになる。
誰一人いないミッドガルの夜の街。
気休め程度にしかならない街灯は頼りにならず、降りそそぐ雪の白さが際立っている。
黒と白。
くっきりと分かれた広い世界に、たった一人だけ取り残されたかのような寂しさ。
「………。」
エアリスは首に巻いたマフラーと口元へ引き寄せると、再び歩き出した。
視界に入り込んできた見慣れた景色に、エアリスはほっと胸を撫で下ろす。
しかし、ぴたり、足を止めた。
教会の入り口に見える、白い煙のようなもの、微かな赤い点。
それは、黒と白しかない空間では本当に不釣合いで。
だけど、今のエアリスには何よりも嬉しいもので。
その正体が何なのか。
分かった時、彼女の白い頬はほんのりと紅み差し、口元には笑みがこぼれていた。
足元から聞こえてくる雪を踏みしめる音は、軽やかで耳に心地良い。
「こんばんは、レノ。」
にっこり笑ったエアリスが声を掛ける。
レノは驚いた様子もなく、ふう、と煙草の白い煙を吐いてから悠々と答える。
「コンバンハ、と。」
そうしてまた、煙草を咥えた。
彼が煙草を吸い込むと、火が点っている先端が赤々と燃え上がる。
「その煙草の火で、レノだって、すぐ分かったよ。」
エアリスは、自分の声がどことなく弾んでいるのに気づいていない。
「俺も、遠くから見て、おねえちゃんだって分かった。」
吐き出された白い煙は、ふわふわと消えていった。
エアリスは眼を瞬かせる。
「…そうなの?どうして?」
煙の行方を眼で追いながら、んー、とレノは小さく唸ってみせた。
「色とか、足音とか…?まあ、なんとなく、だぞ、と。」
赤々と火を灯した後、ふう、と吐き出される白い煙は、黒い空へと消えた。
それを見て、エアリスが笑う。
黒と白しかない空間で見つけた、愛しいものが嬉しくて。
fin