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いつになく花の手入れに夢中になっていたエアリスは、
灰色の雲から無数の小さな粒が降り注いでいたことに気がつかなかった。
古く曇ったガラス窓に当たるその音と、所々壊れかけて隙間の空いた屋根の雨漏りで、雨が降り出したことを知った。
「雨…。」
今日に限って、家を出てくるときに天気予報を観てこなかった。
今の作業を終わらせたら、帰ろうかなと思っていたところだったのに。
窓辺に立って、窓ガラスの僅かな隙間から空を見上げる。
灰色の雲間から見える、細い線になって伸びている光を見つけた。
雨のひんやりした空気に混じった、太陽の甘い匂い。
(ああ、これは、きっとお天気雨ね。)
だったら、もう少ししたら止むかもしれない。
振り返り、教会の中を見渡してみる。
雨漏りの音がいたる所から聞こえてきて、ついにはエアリスの頬にも一粒。
壊れかけた長椅子たちの間を通り抜けながら、雨漏りで濡れてない長椅子を見つけ、腰掛けた。
長椅子に座り、膝を抱え、小さくなって、雨が止むのを待つ。
ぱたぱた、と窓ガラスを打つ雨の音。
ぴたんぴたん、と雨漏りの音。
教会の中に響く心地良いリズムにうとうとしかけていたエアリスは、
彼女に近づく男の影に気づいていなかった。
がた、という振動で、もやもやしていた意識が戻される。
振動の方へ目をやると、赤髪の男。
それも、すぐ近く。視界が全て、鮮やかな赤に染まるほどの。
男――レノは、伸ばしかけていた手をぱっと戻し、
「あ、起こしちゃった?ゴメンネ、と。」
頭を離し、視界の赤は遠ざかった。
驚いたエアリスは、顔を紅くして口をぱくぱくさせる。
「…なにか、用…?」
どきどきしながら恐る恐る尋ねてみる。
胸の鼓動が、教会の中にまで響いてしまいそうだ。
「お仕事。」
「神羅になんか、協力しません。」
「それと、雨宿り。」
「なんで、隣に座るのよ。」
「ここだけ雨漏りしてなかったから。」
「………。」
レノのことをまじまじを見つめた後、小さく噴き出した。
四人分が座れるくらいの長椅子の、端にエアリス、一人分開けてレノ。
沈黙を破ったのは、エアリスの一言だった。
「これはね、たぶん、お天気雨よ。」
「おてんきあめ?」
そ、とエアリスはにっこりと微笑んでレノに顔を向ける。
「雨の匂いに混ざってね、太陽の匂いがしたの。」
雨の匂いとか太陽の匂いとか、相変わらず、彼女独特の表現が耳に心地良い。
ふーん、と答えたレノは一瞬考えて、そして。
「じゃあ、もうずぐ止んじゃうんですか?」
「もう少ししたら、そうね。」
がた、という振動と共に、エアリスの隣にレノが腰掛けた。
「じゃあ、雨が止むまで。」
ぱちぱちと目を瞬かせるエアリスの肩を抱き、引き寄せ、その薄ピンクの唇に口付けた。
薄い灰色の雲の間から、太陽の光が見え始めた頃。
fin