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一人きりの教会は、なんだか落ち着かなかった。
いつものように家を出、教会までの道を歩きながら、今日はどうしようかなと考える。
考えながら教会に辿り着き、軋ませながら扉を開ける。
いつもどおり誰もいない教会に、コツコツと靴音を響かせながら、
エアリスが大切に育てている小さな花畑の前で立ち止まる。
色とりどりの花たちは、壊れた屋根から差し込む僅かな太陽の光を一身に受けて、
自分達の可憐な姿を見てもらおうと競い合うように咲き誇っている。
エアリスはその花たちを一本一本丹念に見て周り、満足そうに微笑む。
すぐ近くの長椅子にコートと花籠、お花いじりの道具を置いて、作業に取り掛かる。
それが、エアリスの日課だった。
(そろそろ、来る頃…かな。)
しゃがみこんだ姿勢のまま、エアリスはふうと大きな息を吐いた。
「………。」
「………。」
「………?」
なんの変化もない、空間。
立ち上がったエアリスは、くるりと後ろを振り向いた。
古臭い茶色い扉は、無言で立っていた。
いつもなら、このくらいの時間帯に来るのに。
古臭い茶色い扉が軋む音の後に続くのが、コツコツという革靴の音。
その音は、花畑に向かっているエアリスの後ろで止む。
微かに煙草の匂いをさせた男が、声を掛ける。
そして始まるのが、勧誘文句だったりただの雑談だったり。
それが、ずっと続いてきた「いつも」。
「…今日は、来ないのかな…?」
そうひとりごちて、エアリスは口元に手を当てた。
(来るのを、待ってるの?私…。)
(神羅の人を?タークスの人を?)
(どうして??)
「………。」
「どうして??」に対しての、信じられない結論が頭の中に浮かんだ瞬間、
帰ろう、エアリスはコートを羽織り、道具を片付け、最後にもう一度花の様子を確認してから、
古臭い茶色い扉をギギギと軋ませながら開けて外に出た。
とっぷりと沈んだ夕陽――なんて、実際に見えるはずはないけれど。
薄暗くなったスラム街にも、オレンジ色の光が僅かに差し込んでいたが、
街灯の光の中に溶け込んでしまった。
ばたん、と大きな音を立てて閉まる扉。
今日も一日が終わるのね、なんて考えたら、今日は来なかった男の顔が思い浮かんだ。
来たら来たで「来い」「いや」の押し問答の繰り返しなのに。
たまに一緒にお花をいじったり昨夜観たテレビの話をしたり。
そんな何気ない「いつも」がなかっただけで、こんなにも寂しいなんて。
しばし扉と向かい合って呆然と突っ立っていたら、後ろから声がした。
「おねえちゃん。」
はっと顔を上げて振り返ると、そこに居たのは今日来るはずだった男――レノの姿。
「………。」
口に咥えた煙草を足元に放り投げ、踏みつけてから、目をぱちくりさせているエアリスへと近づく。
エアリスの視界は、レノ自身で埋まってしまった。
「お帰りですか、と。」
顔を覗き込むようにして僅かに身を屈め、レノがエアリスに問いかける。
レノを見つめるエアリスの頬は、驚きと、嬉しさと、それらを悟られまいとする意地で紅く染まっていた。
「…遅かったわね。」
んー、と赤髪をかき上げるレノの顔が遠ざかった。
「ちょっと、ね。別のお仕事。」
「…そう。」
エアリスが僅かに俯いたその瞬間を見逃さず、レノは再びエアリスの顔を覗き込んだ。
「おねえちゃん、寂しかったのかな?」
「ばっ、そ、そんなことないっ!」
顔を真っ赤にして、慌てたように否定の言葉を口にしたけれど、それは自分で思うほど怪しい。
案の定、レノはニヤニヤした笑みを浮かべている。
恥ずかしくて恥ずかしくて、エアリスはぷいと顔を背けてしまった。
くつくつとレノが笑うので、ますます頬が紅くなる。
「帰りますか?帰るなら、送って行くぞ、と。」
「………。」
エアリスは、小さく息を吐いた。
きっと、まだ顔が紅い。
でも、言わなくては。
背けていた顔をもう一度レノへ向けて、でも、視線は僅かに下に泳がせて。
「…少しだけ、お話、しよ?」
エアリスの顔を覗き込んだまま、レノは満足そうに笑った。
「りょーかい、と。」
遅くなったけど、また「いつも」の時間が始まった。
fin