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鼻歌交じりに歩く少女の数メートル後ろを、スーツ姿の男がついてきている。
男――レノは、目の前を歩く少女――エアリスを神羅へ連れて行くのが任務なのに、
今、この状況はまるでボディガードにでも来たかのようだ。
たしかに、この昼間でも薄暗く少々治安の悪いスラム街に、
女の子らしい淡い色の服をひらひらさせてるこの少女は非常に不釣合いで、
彼女とすれ違うたびに振り返る男達を、レノは密かに睨みつけて歩いた。
「危ないこと、慣れてるもん。」エアリスはそう言って胸を張ったが、
「おねえちゃんを無傷で上に連れて行くことが、上からの命令だぞ、と。」
適当でいて的確な理由をつけて、ついて行くことにした。
他の場所よりも幾分か明るいウォールマーケットは、
光がある分余計に少女の存在を目立つものにし、周りの視線も多くなってきた。
エアリスに興味の視線を投げかけ、声を掛けようとする輩を、
レノは素早くエアリスの真後ろに付き、威嚇することで遠ざけた。
まったく、落ち着いて煙草も吸えやしない。
「…おねえちゃん。」
「なぁに?」
お店をあれこれ見て回るエアリスの声のトーンは弾み、レノのそれとは真逆のもの。
「もー少し、危機感というものを持ってくれないかな、と。」
あら、とエアリスはつんと顎を上げてレノを見上げた。
「慣れてる、って、言ったでしょ?」
「…こどものクセに…。」
ぽつりと呟いたそれを、エアリスは聞き逃さなかった。
「何か言いました?」
レノは両手をひらひらさせて、なぁんにも、おどけてみせた。
「そろそろ、帰ろっか。」
立ち並ぶお店を一通り見て回り、満足したエアリスがレノを振り仰いだ。
腕時計を見ると、夕方の時間を刺している。
ただでさえ薄暗い下の街には街灯が点き始め、灯りによって薄暗さも増してきた。
きっと危険度も増しただろう。
街灯の灯りが、少女を艶かしく映し出す。
レノは無言でエアリスに手を差し出した。
「え?」
エアリスの動きが止まり、ぱちぱちと目を瞬かせながら、レノの手と顔を交互に見やる。
「手。」
繋ごう、その意味を理解した途端、エアリスの頬が朱色に染まる。
ほれ、とレノは戸惑って下ろされたままのエアリスの手を取った。
「あっ…。」
手を引いて、歩き出す。
恋人同士みたい、と繋がれた手を見つめ、頬を紅潮させたエアリスは思った。
「ボディガードですから、今日は、と。」
斜め前にいるレノは、振り返らない。
ぴょこぴょこ揺れる赤い後ろ髪を見ながら、エアリスは笑みをこぼした。
fin