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溜め息を数える趣味なんてない。
「…8回目。」
「ん?」
ないけれど、どうしても気になってしまうのは。
「セリスがこの時間でついた溜め息の数。」
伏目がちな睫毛や、その睫毛が頬に落とす影や、溜め息を漏らす唇。
何よりも、目の前にいる少年のことが気になるから。
「あ、本当?気が付かなかったよ。」
ごめんね、と真正面に座っているセリスは笑った。
イシュタルは大丈夫の意味で微笑んでみせたが、すぐに小首をかしげた。
「なにか、悩み事?」
「そんな大した事じゃあないよ。」
その言葉の後に、セリスは溜め息を一つついた。
無意識に、クセのようになっているのだろうか。
イシュタルが噴き出す。
「嘘、また溜め息ついた。」
「………。」
「妹のことなんだけど。」
ふー、とまた一つ大きな溜め息をつく。
セリスの“妹”の話は、以前彼から聞いたことがある。
会ったことはないけれど、彼いわく、「とっても可愛くてよく気が利く自慢の妹」。
彼の周りの友人いわく「セリスが溺愛している妹。」
彼が妹の話をするときは、表情が今までにないくらい輝く。
しかし、今の表情は、眉根を寄せてどこか不安そうだ。
「妹さんが、どうかしたの?」
「妹が、最近相手にしてくれない。」
しょぼん、と肩を落とすセリスに、イシュタルは目をぱちぱちさせる。
聞けば、携帯を肌身離さず持っているとか学校の帰りが遅いとか休日はどこかへ行ってしまうとか。
「ごく一般的な女子高校生の行動、だと思うけど?」
「でも、最近それが目立つというか、気になるというか…。」
うーん、と唸るついでに、また一つ、溜め息。
イシュタルにはなんとなく分かる。
「…妹さんも年頃なんだし、彼氏がいても不思議じゃないかもね。」
「!!」
“彼氏”という言葉に、セリスは打ちひしがれた様な表情で固まった。
「…あ、あくまでも想像の話だけど…。」
慌てて滑り込ませたフォローも、すでにセリスには遅かった。
「それなりの覚悟はしてたけど、実際そう言われるとショックだなぁ。」
乾いた笑いを漏らした後、また一つ、大きな溜め息をついた。
イシュタルにしてみれば、せっかく好きな人と二人っきりの教室で、特にこれといった進展もなくて、
好きな人は妹のことで頭がいっぱいで、妹相談を受けていた自分、に溜め息がつきたくなる。
「…ふぅ~…。」
無意識のうちに、小さな溜め息をついていた。
fin