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彼女が、一体どのような経緯を経て今に至るのか。
世間一般的な目で見れば、それは容易に想像できることだった。
だからこそ、彼女の底抜けに明るい性格や屈託のない笑顔に惹かれたのかもしれない。
最初はからかい半分で声を掛けたのが、気が付けば彼女の姿を目で追っているほど夢中になっていた。
「シルヴィ、お疲れ。」
「あ、ありがとー、アレク。」
踊りの後、息を切らせているシルヴィアに、アレクは自分の上着をかけた。
「あたしの踊り、見ててくれた?」
アレクの腕にしがみつき頬を紅くして言うその姿は、
先ほどまでみなの前で思わず魅入ってしまうほどの踊りを踊っていた人物とは思えない。
「ああ、見てたよ。今日も完璧だったな。」
「えへへー、ありがと!」
嬉しそうに笑うその表情も、歳相応の無邪気な少女の姿だ。
「…寒くないか?」
「踊った後だし、アレクの貸してくれたこれもあるから、すごくあったかいよ。」
「そうか。」
なら良かった、とアレクは笑みをこぼす。
シレジアに逃げ延びて、秋も終わりに差し掛かった頃だった。
北国の秋が終わるのは早い。
祖国ではまだ秋と言える時期なのに、シレジアでは既に肌寒さを感じる。
夜になると気温も下がり、暖炉に火をくべるようになった。
「みんなを元気付けるため」とシルヴィアは毎晩のように踊りを披露するが、
その時ばかりは厚着してられず踊り子の衣装に着替える。
その広間にも暖炉があるとはいえ、やはりアレクとしては心配だ。
しかし、心配するたびに返ってくる言葉は「大丈夫」とか「慣れてるから」だった。
寄り添うようにして座る二人。
抱くシルヴィアの肩は細く、小さなこの少女の一体どこに力があるのかと思う。
アレクの腕に回された細い手。
そして、すらりと伸びた細い足、冷たさで赤くなったつま先。
「…シルヴィ、これ。」
アレクは小さな包みをシルヴィアへ手渡した。
何の前触れもない突然のプレゼントに、シルヴィアは柄にもなく困惑したようだった。
「えっ?なに、どしたの?」
開けてみて、とアレクが促す。
「あ、う、うん。」
簡易放送されたそれを、シルヴィアはゆっくりとした手つきで解いてゆく。
プレゼントを開けるときの、胸の高鳴り。
小さい頃孤児院で暮らしていたとき以来かも、とふと思った。
「これ…。」
包みから現れたのは、赤い靴だった。
シルヴィアは目を丸くしてアレクの顔を見上げた。
アレクはにっこりと微笑み、ちょっと照れくさそうに頭をかいた。
「穿いてみな。」
そう言うと、アレクは赤い靴を手に取りシルヴィアの前に膝を付いた。
「…う、うん。」
そっと足を伸ばして、赤い靴へとつま先をすべらせる。
靴を通して触れたシルヴィアの冷たい足に、アレクは密かに息を飲んだ。
「えへへ、ぴったりじゃない?」
似合う?と、シルヴィアはアレクの目の前でターンして見せた。
明るい緑色の長い髪と赤いスカートがひらりと揺れる。
「ああ、似合うよ。」
「ありがと!アレク!なんだか、踊るのがもっと楽しくなっちゃった!」
「………。」
跳ねるシルヴィアの姿が本当に嬉しそうで、アレクは続けようと思っていた言葉を飲み込んだ。
その靴に込められた想い。
もう、その足を冷やすことも傷つけることも晒すこともないように。
「…指輪の代わりだよ。」
「えっ、なぁに?何か言った?」
アレクが呟いた言葉は、シルヴィアの耳には届かなかった。
「…なんでもない。」
照れ隠しのため、アレクはわざと乱暴にシルヴィアの頭をくしゃくしゃとなでた。
「あっ、もー!なにすんのよー!」
ぺしぺしと背中を叩かれながら、アレクは思った。
俺ってこんなに口下手だったっけ…?
fin