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『 ファイアーエムブレム聖戦の系譜 』と『 Zill O'll 』中心の二次創作テキストBlog
「 ト リ ソ ラ 」は、原作ファンによる非公認の二次創作テキストBlogです。
版権元及び関係者様各位とは、一切関係ありません。
また、版権元に対する権利侵犯・不利益を目的とするものでもありません。

Japanese Version Only
since : 2007.02.05

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 右手に愛を 

腹部が異様に熱い。
――剣が身体を貫いているせいだ。
そう思った瞬間、込み上げてきたものに耐え切れず、イシュトーは血を吐いた。
床に赤黒い染みが広がってゆく。

セリスがゆっくりと剣を引き抜いた。
と同時に、腹からは血が溢れ出し、再び血を吐いた。
足元に力が入らなくなり、思わずよろめく。
しかし、イシュトーは膝を付き、地面に伏すことを免れた。
ここで倒れてしまっては、ライザの許に行けなくなってしまう。

イシュトーはぼやけてきた視界で、セリスを捉えた。
そして、かすれた声で言う。
「たの、みが…ある、公子…。」
「………。」
イシュトーには、もう戦意がないことを悟ったのだろう。
セリスは自身の剣を一振りしてから鞘に収め、片膝をついた。
二人の視線が重なる。
敵であるはずなのに、公子の気遣いに力ない笑みがこぼれた。
「わたし…を…空が見える、ところ…窓まで、連れてって…もらえない、だろうか…?」
セリスは眉根を寄せ、蒼い瞳でイシュトーを見つめていた。
それは、不信感などを意味しているようなものではない。
敵に対する冷ややかな憐れみでもない。
死に行く者への慈愛とも感じられるような、真っ直ぐな瞳だった。

「…おね、がいだ…公子…。」
「…わかりました。」
セリスは、イシュトーの腕を肩に回し、彼を気遣うようにして立ち上がった。
ゆっくりとゆっくりと、窓へ近づいてゆく。
二人が歩いた跡には、赤黒い血の線が出来上がっていた。
小さく呻き声を上げた瞬間、セリスは思わず歩みを止めてイシュトーの顔を覗き込む。
イシュトーの瞳には、もう小さな光しか灯っていなかった。
「だ、だい、じょう…ぶだ…はやく…。」
意識があるうちに。

やっとの思いで、イシュトーは窓枠に両手をかけた。
セリスは、少し離れた場所で彼の様子を見守っている。
イシュトーは天を振り仰いだ。
ぼやけた視界でもわかるくらいの、青い空。
ライザと共に何度も眺めてきた、青く美しい空が広がっていた。

「…ライザ…俺は…。」
イシュトーは空へ右手を伸ばす。
見えなくなりかけている視界は今、ライザの姿を空の中に捉えていた。
ライザは、いつものように、優しく愛らしい微笑みを浮かべている。
空の中のライザもまた、イシュトーに向かって手を伸ばしてきた。
青白い顔のイシュトーに、安らかな笑みが浮かぶ。
「ラ、ライザ…会い、たかった…ライザ…。」

力の限り右手を伸ばし、より高くと震える足を窓枠にかけて。
愛しいライザの手を掴んだ瞬間。

「危な…ッ!!」
駆け寄り、イシュトーの左手を掴もうと伸ばしたセリスの手は、虚しく空を切った。
窓枠から身を乗り出して下を見下ろしたセリスは、深い溜め息をついた。
「…イシュトー王子…。」

 

「イシュトー様…。」
イシュトーが目覚めたとき、視界に飛び込んできたのはライザの顔だった。
「ラ、ライザ…?」
上半身を起こす。
不思議と、身体中のどこにも痛みはなかった。
「イシュトー様、これで、ずっと一緒にいられますね。」
ライザの両手は、イシュトーの右手をしっかりと握っていた。
あの時見たのと同じ優しく愛らしい微笑みに、イシュトーもふと微笑んだ。
「ああ…。」
そして、右手でライザの両手の温もりを確かめるかのように強く握った。

 

fin



あとがき↓

おそらく、多くの聖戦ファンの中で5%ほどの人にしか興味はないであろう(←失言)
イシュトー×ライザのお話でした。
そんな二人のお話でしたが、とっても楽しくノリノリで書けました。
イシュトーとライザ。このカップリング、嫌いではないです、むしろ好きかも。
「敵キャラだけど恋人同士で、敵だから死んじゃう」っていう境遇がツボかもしれないです。

本当はもっと長いお話になる予定でした。
二人の性格や境遇などを考えていたのですが、なかなかうまく文章にできなくて、
「いいや、まずは書ける部分から書こ~」と思って書き始めたら現在の文章になり、
「これでもいけるな…」とか思っちゃったわけなんですアヒャ。
書けなかった部分は、別の機会にでも…。



07.09.14

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