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腹部が異様に熱い。
――剣が身体を貫いているせいだ。
そう思った瞬間、込み上げてきたものに耐え切れず、イシュトーは血を吐いた。
床に赤黒い染みが広がってゆく。
セリスがゆっくりと剣を引き抜いた。
と同時に、腹からは血が溢れ出し、再び血を吐いた。
足元に力が入らなくなり、思わずよろめく。
しかし、イシュトーは膝を付き、地面に伏すことを免れた。
ここで倒れてしまっては、ライザの許に行けなくなってしまう。
イシュトーはぼやけてきた視界で、セリスを捉えた。
そして、かすれた声で言う。
「たの、みが…ある、公子…。」
「………。」
イシュトーには、もう戦意がないことを悟ったのだろう。
セリスは自身の剣を一振りしてから鞘に収め、片膝をついた。
二人の視線が重なる。
敵であるはずなのに、公子の気遣いに力ない笑みがこぼれた。
「わたし…を…空が見える、ところ…窓まで、連れてって…もらえない、だろうか…?」
セリスは眉根を寄せ、蒼い瞳でイシュトーを見つめていた。
それは、不信感などを意味しているようなものではない。
敵に対する冷ややかな憐れみでもない。
死に行く者への慈愛とも感じられるような、真っ直ぐな瞳だった。
「…おね、がいだ…公子…。」
「…わかりました。」
セリスは、イシュトーの腕を肩に回し、彼を気遣うようにして立ち上がった。
ゆっくりとゆっくりと、窓へ近づいてゆく。
二人が歩いた跡には、赤黒い血の線が出来上がっていた。
小さく呻き声を上げた瞬間、セリスは思わず歩みを止めてイシュトーの顔を覗き込む。
イシュトーの瞳には、もう小さな光しか灯っていなかった。
「だ、だい、じょう…ぶだ…はやく…。」
意識があるうちに。
やっとの思いで、イシュトーは窓枠に両手をかけた。
セリスは、少し離れた場所で彼の様子を見守っている。
イシュトーは天を振り仰いだ。
ぼやけた視界でもわかるくらいの、青い空。
ライザと共に何度も眺めてきた、青く美しい空が広がっていた。
「…ライザ…俺は…。」
イシュトーは空へ右手を伸ばす。
見えなくなりかけている視界は今、ライザの姿を空の中に捉えていた。
ライザは、いつものように、優しく愛らしい微笑みを浮かべている。
空の中のライザもまた、イシュトーに向かって手を伸ばしてきた。
青白い顔のイシュトーに、安らかな笑みが浮かぶ。
「ラ、ライザ…会い、たかった…ライザ…。」
力の限り右手を伸ばし、より高くと震える足を窓枠にかけて。
愛しいライザの手を掴んだ瞬間。
「危な…ッ!!」
駆け寄り、イシュトーの左手を掴もうと伸ばしたセリスの手は、虚しく空を切った。
窓枠から身を乗り出して下を見下ろしたセリスは、深い溜め息をついた。
「…イシュトー王子…。」
「イシュトー様…。」
イシュトーが目覚めたとき、視界に飛び込んできたのはライザの顔だった。
「ラ、ライザ…?」
上半身を起こす。
不思議と、身体中のどこにも痛みはなかった。
「イシュトー様、これで、ずっと一緒にいられますね。」
ライザの両手は、イシュトーの右手をしっかりと握っていた。
あの時見たのと同じ優しく愛らしい微笑みに、イシュトーもふと微笑んだ。
「ああ…。」
そして、右手でライザの両手の温もりを確かめるかのように強く握った。
fin
あとがき↓
おそらく、多くの聖戦ファンの中で5%ほどの人にしか興味はないであろう(←失言)
イシュトー×ライザのお話でした。
そんな二人のお話でしたが、とっても楽しくノリノリで書けました。
イシュトーとライザ。このカップリング、嫌いではないです、むしろ好きかも。
「敵キャラだけど恋人同士で、敵だから死んじゃう」っていう境遇がツボかもしれないです。
本当はもっと長いお話になる予定でした。
二人の性格や境遇などを考えていたのですが、なかなかうまく文章にできなくて、
「いいや、まずは書ける部分から書こ~」と思って書き始めたら現在の文章になり、
「これでもいけるな…」とか思っちゃったわけなんですアヒャ。
書けなかった部分は、別の機会にでも…。
07.09.14