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酒場の夜はとても賑やかだ。
昼間働いている男達が、労働の疲れを癒すためにここに集まる。
傍から見れば、本当に癒されているのかと疑問を持ちたくなるような騒ぎだが、
誰もが酒を飲み笑い、楽しい雰囲気に身を委ねていた。
騒がしい、だけど、この忙しさが心地良い―――
フェルムはそう思っていた。
明るい日差しが降りそそぐ午後の閑静な酒場は、
考え事をしていると不安で胸が押しつぶされそうになる。
幼馴染の男の子――アシュレイのことを思い浮かべると、
「今日はどこにいるのかな?」
「怪我、していないかな?」
「また、会いに来てくれるかな?」
そんな思いばかりが駆け巡り、憂鬱そうに窓の外、扉を見つめてしまう。
心配そうにマスターが話しかけるが、そのたびにフェルムはいつもの笑顔に戻り、
心配かけたことを詫びてから仕事に戻る。
それを繰り返しているうちに、マスターだってフェルムの気持ちに気づき始める。
「フェルムちゃん。幼馴染のことが気になるんだろう?」
昼間の客も引き始め、夜から飲むにはまだ早い時間帯。
ほんの少しの休息の時間。
カウンターで準備をしているフェルムの隣に、マスターが並んで仕事をし始めた。
「えっ、あ…いえ…。」
フェルムは思わず言いよどむ。
いかにも『図星』といった様子の彼女に、マスターは吹き出した。
「そりゃそうだよなぁ。ずっと一緒にいた幼馴染が、突然冒険者になって出て行ったんだからなぁ。」
「………。」
手を止めたフェルムは、アシュレイの顔を思い浮かべた。
赤い髪に、綺麗な緑色の瞳を持った青年。
小さい頃からいつも、もう一人の幼馴染・アイリーンと一緒に遊んでいた。
フェルム自身が、アシュレイに想いを寄せていると自覚したのはいつだったか。
アシュレイの優しさが気になり出したのは、いつの頃からだったろうか。
それと同時に、アシュレイとアイリーン、二人の間に流れる強固とした何かにも気づき始めた。
簡単にその間に入ることができないような、何かに。
毎日酒場に来てくれるのが嬉しくて、それを待ち焦がれていたのに。
そして、いつか想いを伝えようと思っていたのに。
アシュレイは、アイリーンと共に旅立った。
諦めなきゃいけないのかしら?でも―――
考えれば考えるほど思いは巡り、不安が募る。
また会うことができたら、この不安は無くなるのかしら?
手を止めて一点をじっと見つめているフェルムの肩を、マスターが優しく叩いた。
「大丈夫、アイツは元気にやってるだろうよ。そのうちまた帰ってくるだろうさ。」
「…そうですね。」
笑顔で答えたフェルムは、再び仕事に戻った。
心に、会いたくてたまらない幼馴染の姿を思い浮かべながら。
fin