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最初は、全くの偶然だった。
「今日も良いお天気…。」
窓辺に立ったラケシスはそう一人ごちながら、青い空を眺めながら心地良い風に髪を靡かせる。
二羽の白い鳥が仲良く飛んでゆく姿を、細めた目で追った。
暖かな日差しを受けながら、ラケシスは石造りの冷たい窓枠にもたれた。
視界に入ってくる鮮やかな景色に、心が安らぐ。
「あら。」
目線を下げた時、中庭の人影に気が付いた。
蒼い髪の青年。
彼の名前は、確か―――。
「…フィン…?」
吐息から漏れたかのような呟きは、風の音に溶けていった。
この何気ない場面から、ラケシスは目を逸らすことができない。
青年――フィンは懸命に槍の修練に励み、窓から見下ろしている人影に気が付くことはない。
それでも、ラケシスの目はフィンの姿を捉え続けていた。
「……………。」
小さく息を吐いてから、ラケシスは窓枠から手を離した。
いくら眺めても飽くことはなかったけれど、そもそも、いつまでも眺めてる理由もない。
聴こえてくる槍が風を切る音とフィンの息遣いに背を向け、その場を後にした。
次の日も、その次の日も。
気が付くとラケシスは同じ窓辺に立ち、フィンの姿を眺めていた。
あの日、フィンの姿を見つけられたのは、全くの偶然なのに。
こうして窓辺に立ってフィンを見下ろすことが、日課のようになってきている。
フィンの姿を眺めているときの表情が緩んでいるのが、自分自身でも分かる。
しかし、フィンは、自分を見ている人がいることをまだ知らない。
日差しは暖かく、石造りの窓辺は冷たくて、握っている手のひらはほんのりと汗ばんでいる。
聴こえてくる槍が風を切る音とフィンの息遣いに耳を傾ける。
高鳴る胸の鼓動をどうにか抑えつけて、ラケシスは口を開いた。
「こんにちは、フィン。」
手を休めたフィンが、窓を振り仰いだ。
fin