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冷たい瓦礫に座り、足元に転がっている小さな石ころを蹴飛ばして、カルラは天を仰いだ。
辺り一面に広がっている無残な景色とは正反対に、空は抜けるような青さを見せている。
カルラは、すぐ傍で瓦礫の撤去に精を出している相方に聞こえるような声で言った。
「ふぁ~あ。タ・イ・ク・ツ。」
その相方――サフォークは手を止め、苦笑しながらカルラを振り返り見た。
「タイクツ、じゃないだろ。ほら、カルラも手伝って。」
手を差し出すが、カルラはその手を無視し、まるで我が侭を言う小さな子供のように瓦礫に寝そべった。
「どーして『青い死神』の異名を持つあたしが、こんな雑用をしなくちゃなんないわけ?」
あんただって、とカルラは上半身だけを起こしてサフォークにびしっと指を突き出す。
「『竜殺し』なのに、なに楽しそうに雑用こなしてんのよ。退屈じゃない?」
「退屈じゃあないさ。」
既にサフォークはカルラに背を向けて作業に戻っている。
弱冠16歳で帝国の青竜将軍に就いた『青い死神』のカルラには、
埃まみれになりながらも楽しそうに瓦礫の撤去に参加している『竜殺し』のサフォークが理解できない。
そもそも、竜王を倒して平和へと一致団結したこの大陸が、彼女にとっては退屈でならない。
天涯孤独の身になって戦いに身を投じ将軍の座に就いてからも幾度かの戦争を体験してきた彼女は、「平和」を目指して戦っていたはずなのに、いざ「平和」になってみると何か物足りなさを感じていた。
自分自身の何かが欠けたような、ぽっかりと穴が開いたような―――。
それは、カルラが「平和」に戸惑っているからだ。
サフォークはそう思っている。
今まで彼女が歩んできた人生を全て知っているわけではないが、
女性にとってとても辛く悲しいことだということは知っている。
その明るい性格も明るい笑顔も、どこか嘘臭さみたいなのがあることも。
彼女自身も言っていた、「あたしは心の底から笑ったことがない。」
だったら自分が、とサフォークは決意し、彼女と共にいることを選んだ。
「退屈なのは平和な証拠だ。良いじゃあないか。」
がらがらと崩れ落ちる瓦礫から巻き起こる砂埃に、カルラは思わず咳き込む。
「ごほっごほ、うぇっ。…平和って、こんなにも退屈だったんねー。」
「だから良いんじゃあないか。」
繰り返される会話の内容に、サフォークはやはり苦笑せざるを得ない。
「しばらくの間は、退屈な平和に楽しんでおけば良い。俺はずっとカルラの傍にいるから。」
「………。」
どうしてさらりと恥ずかしいことを言っちゃうんだ、この男は―――。
カルラは自分の頬がちょっぴりだけ熱くなったのを、頭をがしがしとかくことで誤魔化した。
「ま、そーゆーことなら、ちょこっとだけ、退屈な平和に付き合ってあげても良いかな。」
サフォークの姿を見るのが恥ずかしくて、カルラは再び瓦礫に寝そべった。
相変わらず空は抜けるような青さで、白い雲がぽかぽか浮かんでいる。
その雲が何かに似ているような気がして、カルラはそれが何なのかを考えることにした。
時折吹き抜ける清かな風が心地良い。
……あぁ、そうだ、船。船に似てるかも……。
瞼を閉じて、大きな溜め息をつく。
目の裏に思い描くのは、大海原を駆ける大きな船―――。
fin