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夜に降る雨は、屋根や窓ガラスを叩く雨音を部屋内に響かせる。
耳障りな音ではあるが、睡眠を妨げるほどのものでもなく、
レヴィンは厚めのシーツを耳まで掛けると眠気に身を任せた。
雨音が次第に遠のいてゆく。
「…レヴィンさま…レヴィンさま。」
「………?」
雨音にかき消されそうなほどか細い声――実際、幾度目かの呼び声でようやく、レヴィンは現実に戻された。
「……どうかしたのか…?」
声の主を知っている。
だから、レヴィンは安心させるかのように優しく声をかけた。
暗闇に慣れた目を、すぐ隣のベッドにいる少女へと向ける。
暗闇の中でのこの少女――ユリアは、本当に儚い印象を与える。
小さな身体は小刻みに震え、大きな枕を抱き、紫色の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
今にも、彼女ごとこの暗闇の中に溶けてしまいそうだ。
「…雨の音がこわいの…。一緒に寝ても、いいですか・・・?」
震えるユリアの言葉に、レヴィンはふと口元を緩めた。
「ああ、おいで。」
相変わらず、雨音が部屋内に響いている。
しかし、レヴィンはユリアの小さな寝息にだけ耳を傾けていた。
レヴィンの腕に抱かれたこの少女は、その温もりに安心したのかすぐに眠りについた。
無垢な寝顔を見つめていると、思わず溜め息をつきたくなるくらい心が安らぐ。
血は繋がっていないが、ユリアを見つめるレヴィンの目は父親としてのそれだった。
そういえば、とレヴィンは思い返していた。
妻と共に残してきた娘も、雨の夜はこうして自分のベッドの中に入り込んできたことを。
ユリアと同じくらいの年頃で、性格は全く正反対なのだが、子供というものはみな同じだと思う。
妻は、子供達は元気だろうか―――。
一瞬そう考えたが、レヴィンはその思いをすぐに頭から消した。
代わりに、再び襲ってきた眠気へと身を任せることにした。
聴こえてくる雨音が、次第に遠ざかるのを感じながら。
fin