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聞こえてくるのは、明るい声。
その方向、窓の外に目を向けると、いつものように穏やかな陽の光の下でじゃれ合う三人の姿。
本当は「じゃれ合ってる」わけではないのだが、小さくてお転婆な双子を相手にしている光景は、傍から見ると「真面目な剣の修練」にはとても見えない。
「ほら!ラクチェ、相手をよく見て!スカサハ、脇が甘い!」
右から、左から、繰り出される木剣をするりと避けながら、ノイッシュは一生懸命に声を掛ける。
しかし、父親のその一生懸命は残念ながら幼い双子には通じず、
双子からしてみれば、剣の修練よりも父親と遊んでいるという感覚なのだろう。
楽しそうな笑い声は、いつまでも途切れない。
片割れが、たまらずに父親の足にしがみつくと、ノイッシュがそれに気を取られてた隙に、もう一人がしがみつく。
「あっ、こら、お前たち…!」
そして、ノイッシュがバランスを崩して、三人揃って転んで、剣の修練は終わる。
窓際の椅子に腰掛け、柔らかな笑みを浮かべて一部始終を眺めていたのが、アイラだった。
愛するノイッシュと、スカサハ、ラクチェの様子を見ていると、時間が経つのも忘れてしまう。
それほど、今、この平和な瞬間に幸せを感じていた。
まるで夢の中にいるのでは、と思ってしまうほどの穏やかでゆるやかな午後。
アイラは、庭に寝転がっている三人に声をかけた。
「三人とも!そろそろ夕食にしよう!」
「あっ、かあさまだ!」
「はーい!」
母親の呼びかけに、双子は一斉に立ち上がって駆けてくる。
「…ふー、やれやれ…。」
双子の下敷きになっていたノイッシュは、服を払いながら立ち上がった。
アイラはドアを駆け抜けて行く子供達を見、くすくす笑いながら、夫を迎え入れた。
「お疲れさま。まったく、修行にならないだろう。」
ああ、とノイッシュは苦笑する。
「だが、子供達と遊ぶのは楽しいよ。」
真面目過ぎるほど真面目なこの夫からその言葉を聞くと、とても嬉しい。
双子は、アイラがほんのりと妬くほどにノイッシュに懐いている。
『家族』という幸せを実感できて、アイラは微笑んだ。
「…そうだな。」
落ち着かない夕食も終わり、賑やかな入浴も終わり。
一人台所に残されたアイラは、静かになった寝室を覗いた。
ベッドに入っても、やはり双子はすぐに寝なかったのだろう。
おもちゃがいたる所に散乱し、ベッドの上には絵本が開かれたまま。
ノイッシュが頑張って読み聞かせた名残だと思うと、アイラは苦笑した。
そっとベッドを覗くと、ノイッシュを真ん中にして、左右に双子。
双子の腕や足がノイッシュの身体の上に放り出されていて、彼は眉間に皺が寄っている。
朝から晩まで、しかもほぼ毎日、双子の大暴れに付き合っている夫の姿に思わず噴き出した。
まるで、まるで夢の中にいるのでは、と思うほどの穏やかで優しく流れる平和な時間。
「お疲れさま、お父様。」
アイラは呟くと、そっと、ノイッシュの額にキスをした。
fin