lovely letter

依頼を終えたハック達は、ロストールの門前にいた。
「じゃあ、ここで解散しようか。」
「はーい！ルルアンタ、宿の手配しておくねっ！」
元気よく、手を上げて言ったのはリルビーの少女。
「うん、ルル、頼んだよ。僕はギルドへ報告に行ってるから。」
ルルアンタが再び明るく返事をした後、走る彼女を先頭に、仲間達はロストールの門をくぐって行った。
「さて、と。」
依頼の品が入った荷物を背負い直し、ハックも門をくぐり、ロストールの街へと足を踏み入れた。

「はいよ。確かに受け取ったぜ。これが報酬だ。」
「ありがとうございます。」
依頼品を渡し、主人から報酬の金を受け取り、ギルドを出ようと踵を返したとき。
「あ、ハック、ちょっと待ってくれ。」
何かを思い出した主人は慌てて、後ろの棚から何かを探し出す仕草を見せた。
「はい、なんでしょう？」
指名の依頼でもあったのだろうか、とハックは立ち止まる。
「これこれ。お前さん宛てに手紙だ。」
指名の依頼は、たいてい人命救助である。
一般市民がダンジョンへ迷い込み、そのまま行方不明になるというケースだ。
獰猛なモンスターがいるダンジョンで、戦う術を持たない彼らを救うのは日を急ぐ。
ハックは神妙な面持ちで手紙を受け取った。
しかし、差出人の名前を見て、彼は素っ頓狂な声を出した。
「え？あ、アトレイア、様？」
「おう、なんだ。ラブレターか？」
ギルドの主人はニヤニヤとした笑いを浮かべている。
楽しそうな話題に飢えているような顔つきだ。
「まさか。」
ハックは苦笑して見せたが、アトレイアに何かあったのでは、と内心焦っていた。
手紙を開けてみる。
なんだなんだ、と主人は覗き込もうと背伸びをしたが、ハックはそれをするりとかわした。
封筒にすっぽり入るくらいの小さなカードと、三つに折られた便箋が出てきた。
薄紅色のカードの真ん中には、とてもたどたどしい文字で

『Ｈａｐｐｙ　Ｂｉｒｔｈｂａｙ』

と綴られていた。
（これは…。）
どきどきと高鳴る胸を押さえながら、便箋を開いた。
カードと同じ、薄紅色に淡い花模様が縁取っている便箋。
その可愛らしさは、アトレイアを思い起こさせた。

『ハックさまへ―――

　私は、いつもハックさまからいろいろなものを頂いてばかりいました。

　何かお礼をしたいとずっと思っていたのですが、こういうのは初めてで

　何も思い浮かばず、せめてお手紙をと思い、今、こうして書いています。

　ハックさまのおかげで、少しですが、文字が書けるようになりました。

　ほんとうに、感謝しています。

　私には、まだまだ知らないことがたくさんあります。

　ご迷惑だとは思いますが、これからも私にいろいろと教えてください。

　お誕生日、おめでとうございます。

　アトレイア―――』

「……………。」
ほう、とハックは溜め息をついた。
暖かな気持ちが、胸いっぱいに広がっている。
たどたどしい文字で綴られた、アトレイアからの手紙。
彼女は、ハックと一緒に勉強して、最近やっと文字が読めるようになったくらいだ。
文字書きの練習は、ほんの少しだけ、簡単なことしかしていない。
そんな彼女が書いたこの手紙は、相当大変だったに違いない。
それでも、自分のために一生懸命ペンを動かすアトレイアの姿を想像したら、
嬉しさとか彼女への愛おしさとかが波のように押し寄せてきた。

ほわんとした表情で明後日の方向を見つめているハックから、ギルドの主人は何かを察したようだった。
ごほん、とわざとらしく大きな咳払いをすると、我に返ったハックが慌てて振り返る。
「…行かなくて良いのかい？」
「えっ、あっ。そ、そうですね。行ってきます！」
ハックは慌てて手紙を封筒にしまいこむと、そのままギルドを飛び出していってしまった。
「…若いねぇ…。」
後に残された主人は頬杖をつきながら、ぽつりと呟いた。

 

fin

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あとがき↓

５月２３日は「ラブレターの日」らしいのです。（５２３→コイブミ）
ということで、即興で書きました、旅先主×アトレイア。
うーん、なんというてｎ（強制終了）
しかも、ラブレターってなんか違う！これバースデーレター！


07.05.23（コイブミの日！）