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普段、俺の前でも滅多に見せないような、そんな極上の笑みを浮かべて、
アイラが見せてきたものは、黒と茶色の縞模様を持った猫だった。
「にゃお」
とソイツが鳴くと、アイラは首元を優しく撫でてやりながら、
「庭の木陰にいたから、連れてきてしまった。」
とろけたような、やはり極上の笑みを浮かべて、ソイツを抱きしめる。
猫はごろごろと喉を鳴らし、目を細めて気持ち良さそうな表情を見せている。
二人――正確には一人と一匹――の様子を見ている俺は、なんだか面白くない。
「ふぅん…猫ねぇ。」
「あ。」
俺はアイラの手元から猫をひったくると、目の前まで抱え上げた。
猫は不満そうな目つきで見下ろしてくる。
だらんと垂れた足は無力そのもので、ちょっとだけ、優越感。
そして猫をまじまじを見つめ、
「…オスか。」
そう呟くと、アイラの拳が脇腹にヒットし、呻いている間に猫は再び彼女の腕の中に納まった。
「まったく。乱暴者は困りましゅねー。」
おいおいおい。
そんな口調、お前のガラじゃないだろ。
恨めしそうにアイラを見ると、代わりに腕の中の猫が勝ち誇ったような顔で
「にゃう」
と鳴いた。
本当に、面白くない。
今日は猫の姿が見えない。
中庭には、一人で稽古をしているアイラの姿だけ。
ラッキー。
ここんとこ、アイラはアイツにべったりで、俺はなかなか相手にされなかった。
それが大いに不満だったから、
「アーイラ。」
彼女に近づき、振り返った彼女を抱き寄せ、
「ちょ、レックス…。」
その唇を奪ってしまおうとした、まさにその直後。
「にゃお」
後ろから聞こえてきたのは、忌々しいアイツの声。
「あっ、トラ!おいで。」
アイラはするりと俺の腕の中から消えて、駆け寄ってきた猫を抱き上げた。
「………………………。」
「どこ行ってたんだ?心配したんだぞ。」
「………………………。」
「ん?こらこら、くすぐったいよ。おなかが空いたのかな?」
「………………………。」
「じゃあ、ミルクをあげましゅからね。」
おいおいおい。
そんな口調、お前のガラじゃないだろ。
不満そうにアイラを見ると、もうすでに彼女は俺に背を向けて歩き出していて、
肩越しに見えた猫は、憎たらしいほどに勝ち誇ったような表情だった。
まったく。
こんなこと、いつまで続くんだ。
fin