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そこで会ったのは、本当に、偶然のこと。
なかなか寝付けないから、ちょっとだけ街中を歩いてみようかな、とふと考えて。
真夜中だというのに明かりと楽しそうな声が漏れる酒場を通り過ぎ、
さらさらと清らかな音を奏でる噴水を通り過ぎ、
月明かりで青白く光る塀が立ち並ぶその場所に来たとき。
そこに顔見知りの男がいたことは、本当に偶然だった。
「夜中に徘徊する不審人物発見。」
声のした方に目を向けると、塀の陰にひっそりと佇む背の高い人影がひとつ。
神官服を身に纏い、後ろ髪を一つに束ね、病的なほどに青白い顔は薄い笑みを浮かべていた。
「……って、俺も他人のコトは言えないか。」
「…ツェラシェルさん。」
立ち止まった少女は警戒する風もなく、ただ少しだけ驚いたように大きな深緑色の瞳を瞬かせた。
交わる視線の間を、夜の風がふわりと吹き抜けていく。
「おやおや。あんたに会えそうな気がして待ってたら……ホントに来たよ。」
月の見える真夜中の、無音の世界に、もう馴染みとなっていた声が静かに響く。
昨日と、一昨日と、更にその前と、同じ時間に、同じ場所、同じ格好で。
この幾度目かの出会いは、ユラテからしてみれば既に偶然ではなかった。
「こんばんは。」
「俺は賭け事には弱いハズなんだが、かなり運をつかっちまったようだ。当分、ツキはなさそうだ。で、俺に用かい?」
ユラテはツェラシェルに向かってにっこりと微笑んで見せたが、
「用なんてないよ。ただ眠れなかったから、ここに来ただけ。」
つんと澄ました顔でそう答えた。
「あ、そ。じゃ、あばよ。」
ツェラシェルもそっけなく言いつつも、彼にその場を去るつもりはないらしい。
ユラテも当たり前のように、ツェラシェルから数歩分離れた場所に腰を下ろした。
ここ数日間で繰り返されている、二人だけの時間。
他愛のない話をしたり、二人ともただ沈黙の時を過ごすこともあった。
二人が今ここでこうして過ごすのは、初日の出会いだけは偶然であって、
あとはユラテが意図的にツェラシェルの元を訪れているのである。
いつも余裕の表情で他人に軽口を叩いて、無邪気に憤慨するララを見て楽しんだりしているツェラシェルだが、いつまでも病的なほどに青白い顔とか身体の具合とか、無言になったときにふと見せる物悲しそうな表情とか、そういう彼自身が持っている、表には決して出さないようなものが気になっていた。
初めて二人きりで過ごしたときは、特に気にしてはいなかったのに。
少しずつ少しずつ、ユラテの中で、ツェラシェルは放ってはおけないような存在になっている。
(変なの…。)
自分でもそう分かっているのに、でも、自分の中の真意は分からない。
それでも、二人だけの時間、二人だけの空間を、居心地が良いと感じる。
こころが締め付けられるほどの思いに、ほっと溜め息をつきたくなるのは何故だろう。
分からないまま、気付かないまま、今夜もいつもと同じ時間が過ぎる。
そしてまた、他愛もない話をしようと、誰かが口を開く。
fin