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ノーブル伯になって初めて迎えた誕生日。
まさか弟と義兄と執事に祝われるなんて思ってもいなかった。
弟・チャカに腕を引っ張られるようにしてリューガ邸に赴いて、
執事・セバスチャンに促されて部屋に入り、目を丸くする。
普段なかなか会えない義兄・レムオンと、テーブルに置かれたケーキを交互に見た。
「義妹は今日が誕生日らしいな。」
「え、な、何で知ってるの?」
状況が上手く飲み込めないリズは、目を瞬かせるばかり。
「俺がレムオンさんやセバスチャンさんに頼んだんだぜ!」
チャカは得意気に胸を張り、鼻の頭をこする。
「さあ、リズ様。お座り下さい。お茶のご用意を致します。」
「は、はぁ…。」
「ほらほら、姉ちゃん!」
チャカに背中を押されながら、ふらふらと長椅子に座る。
どうしたらよいものかと、なんだか照れてしまう。
この歳にもなって、こんな華やかなバースデーパーティーを開いてもらえるとは。
隣にはチャカ、向かいにレムオンが座り、セバスチャンから紅茶の入った器が手渡された。
「すみません、リズ様。エスト様には連絡が取れず、今日は来られておりません。」
申し訳なさそうに謝るセバスチャンに、ようやく場に慣れたリズも苦笑する。
「まぁ、彼は仕方がないよね。」
テーブルにはケーキの他に、侍女たちが用意した焼き菓子などが並べられている。
満面の笑みでそれを頬張っているチャカ。
いつも通りの静かな顔で紅茶を飲んでいるレムオン。
その様子を微笑んで見守っている、セバスチャン。
その光景を見て、思い出すのは、数年前まで両親がいた頃の誕生日。
母がご馳走やケーキを作り、農作業から帰ってきた父を出迎える。
父は駆け寄ってきたリズの頭を撫でながら「おめでとう」と言う。
小さな弟も、リズの服を引っ張って、まるで自分のことのように嬉しそうに笑っている。
ケーキには、歳と同じ数のろうそくが並び、火が揺れている。
それを一気に吹き消すと、家族は口々に歓声を上げた。
みんなで囲む母の料理に、弾む笑い声。
ささやかな幸せを囲み、家族の笑顔が絶えることは無かった。
嬉しくて嬉しくて、気がついたとき、リズの目には涙が滲んでいた。
それに気がついたチャカが、おどけて言う。
「あれ!?姉ちゃん…!?まさか、鬼の目にも涙…!」
「なんだって?」
勢い良くチャカの頭を叩くと、チャカはオーバーリアクションで痛がる。
レムオンがやれやれといった表情で溜め息をつく。
セバスチャンは相変わらず微笑んでいる。
まったく、と憤慨したように腕を組むリズはしかし、涙は消えていつもの笑顔が戻っていた。
もう無いと思っていた、楽しかったあの日が、今目の前で起こっている。
あの日と同じように、家族のみんなが、笑顔で。
fin