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最愛の夫と出会い、二人の子供に恵まれ、家族ができた。
夫に寄り添い、共に語り合い、子供達の成長を目を細めながら見守る。
記憶を無くした身なれど、ディアドラは今、幸せと呼べる瞬間にいる。
この幸せが永遠に続くようにと祈りながら。
しかし、時々、頭の中を何かが走り抜ける感覚に襲われた。
蒼い髪の男の人が、手を伸ばし、引き寄せる。
蒼い瞳は柔らかな光を宿し、大きな手に優しく包まれる。
そして、耳元で甘く囁かれる、自分の名前。
一瞬のことなのに、どこか懐かしく、そして悲しく、せつなくて。
涙が溢れてくるのは、何故だろう。
貴方は、だれ?
今ある幸せに不安と疑問と恐怖と、そして綻びを見つけた。
全てを思い出し、全てを悟ったとき、残された時間はあと僅か―――。
「あなたは世界の希望…。ユリア、あなただけは生きて…。」
泣いて嫌がる最愛の娘にキスをして、涙を堪えた笑顔で送り出す。
小さな手は母を求めて空を切り、光の中へ消えていった。
頬を一筋の涙が零れ落ちる。
「ごめんね…。」
振り返ったとき、そこには最愛の息子がいた。
否、息子“だった”者は小さな手を伸ばす。
それは母を求めているわけではなくて。
「おまえにもう用はない…。」
冷たく不気味な笑みを浮かべながら。
一瞬にして、目の前は闇に覆われた。
纏わりついてくる闇に身を任せ、目を閉じる。
「シグルド様…。」
呟いたのは、最愛の人の名前。
目を開けると、そこは一面の光の世界。
名前を呼ぶ声に、振り返る。
その姿を見止めて、微笑む瞳には涙が滲む。
「…シグルド様…!」
両手を広げている、最愛の人の許へ。
駆け出して、その胸の中へ飛び込む。
身体を包みこむ懐かしい感触に、涙はとめどなく流れ落ちる。
優しく頭を撫でる、大きな暖かい手。
耳元で囁かれる懐かしい声。
「おかえり、ディアドラ。」
ここが、帰りつく場所。
永遠の幸せの在り処。
fin