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原因は、本当に本当に、些細なこと。
きっと数日もすれば忘れちゃうんじゃないかってくらい、小さなこと。
だからファバルは少しだけ、困ったな、という表情で笑っている。
対して隣にいるラナはというと、完全に横を向いてしまっている。
「…ラナ、ごめん、悪かったよ。」
そっと手を伸ばしてラナの肩に触れると、ようやく顔を向けてくれた。
唇はきつく結び、睨みつけてる目にはうっすらと、涙。
それを見てしまったら、ファバルは完全に困惑してしまった。
どうやら、泣かせてしまっていたらしい。
現在の状況を軽々しく見ていたことに、少しだけ罪悪感を覚える。
「ラナ、泣くなよ。」
にっとファバルが微笑んでみても、ラナは睨みつけるだけ。
「…そう言うファバルは、なんで笑ってるのよ?」
「いや、これは…。」
指摘されて口篭っていると、ラナは余計に腹を立ててしまった。
「もう!全然わかってないんだから!」
肩に置かれたファバルの手を振り解くと、再び横を向いてしまった。
気まずい沈黙が流れる。
困った、ばかりが頭の中を埋め尽くしているファバルは、やはり笑うしかない。
かしかしと頭を掻いた後、はっとひらめいた。
「…ラナ。こっち向いて。」
「………。」
横を向き、小柄な肩は微かに震え、涙を拭う仕草を見てしまうと、本当に罪悪感が芽生えてくる。
泣かせてしまった事は申し訳なく思うが、その反面、彼女を愛しくも思えてきた。
意を決して。
ファバルは強引にラナの顔をこちらに向けた。
青と青の瞳が重なり、顎をくっと持ち上げて―――。
「!?」
一瞬、何が起こったのかわからないという表情をするラナ。
思わず口元を両手で隠し、頭の中は混乱でいっぱいだ。
今、ラナの意識はある一転に集中している。
舌の上を転がる、甘くてまあるい感触。
「…美味しいか?」
甘くてまあるいキャンディーがひとつぶ、舌の上で踊っている。
「………。」
ラナはきっと睨みつけたが、何故だか涙が溢れてきた。
ファバルはにこにこしながら顔を覗き込んでくる。
一瞬の間を空けて、とうとう睨むのも疲れて噴き出してしまった。
くすくす笑いながら涙を払うラナの姿を見て、ファバルは心の底から安堵した。
「どうして、キャンディーを?」
すっかり機嫌を取り戻したラナが首を傾げる。
夕陽に照らされて、頬はほんのりと紅く染まっている。
「…孤児院にいた頃さ、たまに子供達同士がケンカするんだよ。
俺が止めに入るけど、どっちも泣いてて険悪ムードだし。
そういう時に、キャンディーあげると泣き止んで、そのうち仲直りして。」
孤児院を思い出しているのであろう、ファバルの表情はとても優し気だ。
そうなの、と呟きながらファバルを見つめるラナの表情もまた、柔らかく微笑んでいる。
しかし、はたと気がついて。
「…待って。それって、あたしのことも子供扱いしてるってことになる?」
「え!?いや、そんなことは…。」
ラナは大きな溜め息をつく。
ファバルは慌てて詰め寄る。
「いや、そういう意味とかじゃなくて…!」
「…ま、いいんだけど!」
ラナの明るい笑い声が響く。
ほっとしたように、ファバルも笑い出す。
甘くてまあるいキャンディーで、心もあまく まるく。
fin