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互いの背中に回された腕と重ね合わせた唇は。
離れていたときの寂しさと、今この瞬間に会えた喜びを表す。
しかし幾度の逢瀬を経ても、その思いは決して表情には出さず、
長い口付けの後に目を開いたとき、二人は互いを拒絶するかのように身体を突き離した。
街外れの廃屋の陰。
二人を照らすのは、月の光。
少女は、縁が刺繍されたフードを被っているが、
月明かりの下で映える白い肌と紅い唇のコントラストが美しい。
青年は、灰色のフードを被っているが、
月明かりの下でも光る蒼く強い瞳が美しい。
「また、会えましたね。」
少女が口を開く。
冷たく薄い笑みを浮かべながら。
「会えて嬉しい?」
青年は問いかける。
夜明けの色に似た、少女のひとふさの髪に口付けながら。
「ええ。貴方がここまで生きていたから。」
少女は青年の手を払い除ける。
さらりと胸元に流れ落ちる髪。
「心配してくれてるの?」
青年は柔らかな微笑みを向ける。
「まさか。貴方を殺すのは、我が主です。」
少女は言葉を強める。
まっすぐに、青年の蒼い瞳を見つめながら。
「今ここで、君が殺せばいいじゃないか。」
青年の、無垢な顔に似合わない残酷な言葉。
少女の白い手を掴む。
「………。」
少女は口を閉ざす。
青年を見つめる眼は鋭く。
「怖くてできない?」
青年は小首を傾げて問う。
相変わらず、柔らかな微笑み。
「戯言を。私は貴方を殺そうと思えばいつでも殺せます。」
少女は冷たく笑う。
手は握られたまま。
「…僕は君に殺して欲しい。」
少女を引き寄せ、もう片方の手を腰に回す。
流れる雲が月の光を遮る。
きっと、青年は微笑んでいる。
少女もやっと、ふわりと笑う。
「…ならば、そうして差し上げましょう。」
手を握り返し、もう片方の手は背中に回し。
眼を閉じ、口付ける。
別れを惜しむかのように。
再会を約束するかのように。
隠れた月が、再び二人を照らすまで。
fin