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『 ファイアーエムブレム聖戦の系譜 』と『 Zill O'll 』中心の二次創作テキストBlog
「 ト リ ソ ラ 」は、原作ファンによる非公認の二次創作テキストBlogです。
版権元及び関係者様各位とは、一切関係ありません。
また、版権元に対する権利侵犯・不利益を目的とするものでもありません。

Japanese Version Only
since : 2007.02.05

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 白銀色の約束 

一年の半分以上が雪に覆われている、このシレジアに移って数ヶ月が経っていた。
雪を見たのは初めてではないが、全てが白銀色に染められた景色は美しく神秘的で、
ちらちらと舞い落ちる雪を眺めているのだけで何時間も過ごせるほどだった。

フィンとラケシスも、雪を眺めるのが好きだった。
窓辺の椅子に座り、二人で身体を寄せ合い、ただ景色を眺める。
時折、暖炉の中にある薪が小さな音を立てて崩れ落ちるが、
二人の部屋にはそれ以外に音を立てるものは何も無い。

束の間の休息。
永遠にも感じられる幸せ。

「三日後、キュアン様と共にレンスターへ帰ります。」
突然のフィンの言葉に、ラケシスは顔を上げた。
フィンは微笑んでいる。
彼はいつも、優しげな微笑を向けてくれる。
しかし、真っ直ぐラケシスだけを映している瞳は憂いを帯びている。
「どうして」とか「そんなの嫌」という抗議の言葉を、ぐっと喉の奥に押し込んだ。
代わりに
「…そう。」
と、微笑みながら一言だけ答えた。

 

フィンが祖国に帰る日の前日。
真夜中に、ラケシスは目を覚ました。
部屋の暖炉の火は消えかけているが、寒さを感じて目を覚ましたわけではない。
身体を引き寄せ包み込むように回された腕。
さっきまで顔を埋めていた胸。
ゆっくりと視線を上に這わせると、フィンの寝顔が目に入った。
無垢なその寝顔に、ラケシスは微笑んだ。
額にかかっている青い髪をかきあげ、そっと口付けた。

 ……エルト兄様もフィンも、私のもとからいなくなってしまう。

そう思った瞬間、涙が溢れてきた。
慌ててフィンの胸へ顔を埋めた。
嗚咽を堪えようとするが、身体から伝わってくる温もりがそれをさせない。
涙は次から次へと溢れてくる。
ラケシスはフィンに背を向け、自分の両肩を掻き抱いた。

一番大切な兄・エルトシャンとの別れは、ラケシスの心に大きな傷を作った。
心身共に衰弱しきった彼女を救ってくれたのが、フィンだった。
いつも傍にいて、慰め、勇気付け、元気付けてくれた。

 お願い、貴方まで、私のもとから離れていってしまわないで……!

心の中ではその思いばかりが溢れ出てくるのに、
言葉となって口から出ようとするとそれを止めようとする自分がいる。

「ラケシス…。」
耳元で囁く声に、はっと我に返った。
気付かれないように涙を拭くと、フィンの方へ向き直った。
暗闇なので、涙の痕を見られることはないだろう。
「あ…ごめんなさい、起こしてしまったかしら…。」
フィンは微笑みながら、ラケシスの黄金色の髪を優しく撫でた。
「君が、泣いていたから。」
「………。」
フィンを見つめる視界が揺れた。
瞬くと涙の粒が頬を伝い零れ落ちた。

フィンはいつもそうだ。
微笑を絶やさず、傍にいてくれる。
まるで全て知っているかのように、辛い時は必ず手を差し伸べてくれた。
優しく包み込んでくれる温もりは、ラケシスの心の傷を癒してくれた。

今では、フィンがいなくては不安で不安で堪らないのに。

「…フィン…。」
「うん。」
「わたしは…。」
「うん。」
「貴方に…行って欲しくありません…。」
嗚咽を漏らしながら心の内を吐き出した声は、暗がりの部屋の中に消え入りそうなほどだった。
我侭を言ってることは分かっている。
こんな我侭を言って、フィンを困らせているのが悲しい。
しかし、別れるのはもっと辛く悲しい。

「…良かった。」
「…え?」
ラケシスは顔を上げた。
フィンは、黄金色の髪を撫でる手をラケシスの頬へと伸ばし、涙を拭った。
「ラケシスは、私と離れても平気なのだと思っていたから。」
「………平気なわけがありません…。」
心外だとでも言うように頬を膨らませるが、すぐに涙が溢れる。
フィンは微笑みながら、両手のひらをラケシスの頬へと伸ばし、引き寄せた。
「キュアン様に、ここに残らせて頂くようお願いしてみるつもりだ。
 私も、ラケシスと離れるのは辛い。」
「…フィン。」
暖かい胸元に、頬を摺り寄せる。
フィンの言葉に安堵し、微笑み、抱きしめる。
少しだけ顔を上げ、見つめ合い、何度も何度もついばむようなキスをする。

ふと目線を逸らした時、フィンの背中越しに窓の外を見た。
月の光に照らされて、白銀の雪が舞い、白銀の景色に染めてゆく。

祖国アグストリアは、シレジアほど雪が降り積もることは無い。
どこの国も、シレジアほど見事な雪景色はないだろう。
初めて辺り一面の雪景色を見たとき、ラケシスは心を躍らせた。
フィンと共に外に出て、その景色や雪の感触を楽しんだ。
窓辺に座り、二人で見る雪がとても美しいと思った。

 いつか、二人で雪を眺めることができたら…。
 愛しい祖国と、愛しい人の祖国で。

密かに抱いていた願いを思い出す。
平和な時が、きっと訪れるはず。

「…フィン、駄目よ。」
目線を戻し、今度はラケシスが両手でフィンの両頬を包み込んだ。
「…ラケシス?」
フィンは目を丸くし、ラケシスの顔を覗き込む。
涙は消え、ラケシスは微笑んでいる。
「フィンは、レンスター王国のキュアン王子に仕える優秀な騎士です。
 今、レンスター王国はトラキアに狙われているのでしょう?」
「あ、ああ…。」
「大切な祖国を守るために、キュアン王子は戻られるのでしょう?
 このような状況で、これ以上長く祖国を留守にはできませんもの。」
「そう、だね。」
ラケシスはにこりと微笑む。
「だったら、優秀なレンスターの騎士様も、祖国を見捨てるわけにはいきません。
 フィンも、キュアン王子と共にレンスターへ戻るべきです。」
「ラケシス、だが私は」
言いかけたフィンの唇を、ラケシスの桜色の唇が塞ぐ。
突然のことに、フィンは目を白黒させた。
唇を離すと、ラケシスはもう普段の表情に戻っている。
気高く強く美しい、ノディオンの王女の顔に。
「エルト兄様も、祖国を重んじる騎士でした。私は兄を敬愛しています、今でも、これからも。」
「………。」
「フィンには、兄様のような騎士になってもらいたいのです。いいえ、兄様以上の…。」
「ラケシス…。」
ラケシスが、兄・エルトシャンに絶対的な好意と尊敬の念を抱いていたことは知っている。
それが恋心では決して無いと言い切った彼女の言葉を信じていなかったわけではないが、
戦場で、最愛の義兄を失ったときのラケシスの悲しみはフィン自身にほんの僅かだが嫉妬を抱かせた。
『獅子王』と称されるほどの騎士である。

 俺も、なれるだろうか…。あの方のような騎士に…あの方以上の騎士に…。

いや、と首を振る。
ならなくては。
忠誠を誓った王子と祖国のために。
今、目の前にいる愛しい人のために。
騎士として。

「ラケシス、すまない。ありがとう…。」
「ううん、私の方こそ、我侭を言ってごめんなさい。」
「そんなことはないよ。嬉しかった。」
「私も、嬉しかったです。」

くすくすと顔を見合わせて笑い、お互いの身体を抱きしめ合う。
この温もりを忘れないために。

「でも、必ず、また会えますよね。」
覗き込むラケシス瞳は、仄かに不安げな色を見せる。
義兄のことと自分を重ねているのだろうことがよく分かる。
だからこそ、彼女を守りたいという気持ちが溢れ、とてもせつなくて、とても愛しい。
「ああ、もちろんだ。必ず、会えるよ。」
フィンが力強く頷くと、ラケシスは明るい笑顔を見せた。

「ねぇ、フィン…。」
「うん?」
「全て終わったら…。」
「うん。」
「また一緒に、外の雪を眺めましょう。貴方の祖国と、私の祖国の雪を…。」
「ああ…約束しよう。」

約束の意味を込めて、二人は口付けた。

一面の白銀の世界で交わされた二人の約束。
ほんの少しの別れが過ぎたら、幸せが訪れると信じて―――。

 

fin



後書き↓

3月に「雪」なんて、世間一般では「季節外れ」だと思うのですが、
梅之助の住む北国は4月頃まで雪があるのも珍しくないし、まいっか☆という心境。
北国生まれ北国育ち北国在住の梅之助は、どーしても「雪」で書きたかったのです。



07.03.07

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