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書庫の奥から、肖像画が発見されたらしい。
前を歩く家臣の背をぼんやりと見つめながら、書庫へと通じる廊下、セリスは迷っていた。
見てしまえば、諦めがつくだろうか――。
見ない方が、知らないままでいる方が、気が楽か――。
「セリス様は、ディアドラ様に本当によく似ていらっしゃる。」
幼いころから言われてきた言葉。
やがて王となり、昔のディアドラ――母をよく知る家臣たちも口々にそう言った。
正直、そう言われてもあまり実感はない。
母親と共に過ごした時は、それ以外のことも覚えていないほど一瞬で小さな頃だったから。
しかし、似ているといわれて嬉しくないはずがない。
もうここには存在しない両親が残してくれた大切なものだから。
嬉しくて、少しだけ恥ずかしくて、しかし、「似ている」ことは自信へと繋がっていた。
―――彼女と出会うまで。
セリスはもう一人、母に似ているという人を知っていた。
隣を歩く、ユリアだ。
セリスの妹であり、唯一の肉親。
「…どうかしましたか?お兄様。」
視線を感じ取ったのか、ユリアが歩きながら顔をこちらに向けた。
長く透き通るような銀色の髪に、紫色の瞳。
母もそのような容姿をしていたと聞く。
………いや、諦めなくては。
妹への恋慕なんて。
頭の片隅にいる自分が呟いた。
「…ちょっと、緊張してね。」
そう言って笑ってみせると、ユリアもふわりと笑みをこぼす。
「そうですよね、お兄様は…。」
はっと一瞬言い淀んだユリアに気づいて、
「楽しみだよ。」
明るい声で繋げたセリスに、ユリアは今度は少しだけ哀しそうな笑みを向けた。
「こちらです。」
家臣に促された先には、既に奥から引き出され白い布で覆われた額があった。
高さはセリスの身長よりも低いが、それでも大きな物だった。
「………。」
いざそれを目の前にして立ちすくむセリスの手に、温かいものが触れた。
「お兄様。」
ユリアの手が、セリスの手を握っていた。
大丈夫、といっているような温もりが伝わってくる。
「…うん。」
セリスが一歩踏み出すと、ユリアも後に続いた。
微かに震える手を伸ばし、柔らかな布に触れ。
見てしまえば、諦めがつくだろうか――。
見ない方が、知らないままでいる方が、気が楽か――。
一気に引き下ろした。
衣擦れの音と、舞い上がる埃。
現れたのは、
「…お母様。」
ユリアの呟きと共にきゅっと強く握られる手。
周りの家臣たちから歓声が上がった。
銀色の髪は緩やかなウェーブがかかっていて、こちらに向けられている紫色の瞳は微笑みを湛えている。
ああ、とセリスは思った。
なんて、綺麗で残酷な肖像画なのだろう。
fin