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プリシスの体力が危ない。
そのことに気がついたのは、クロードだけではなかった。
常にサポート役に回り、戦況と仲間の状態に気を配っているレナの反応は早かった。
彼女が回復魔法の詠唱を始めると、それを察知してか、敵はプリシスとレナの二人に狙いを定めたようだった。
(まずい…!)
クロードは舌打ちした。
詠唱を止められてしまうとプリシスが回復できない。
彼女の体力は限界に来ているのが見た目でも分かる。
それに加えて、物怖じしない性格だから、敵が向かってきても退こうとする様子がない。
レナは詠唱の方に集中している。
向かってきている敵にちらりと目を向けながらも、中断しようとはしなかった。
プリシスのことを考えての判断に違いない。
(彼女たちを守らなくては…!)
女の子を、仲間を守らなくてはという、男としてのプライドに火がついた。
「光の勇者様に勝てると思ってるのかい!?」
クロードの『挑発』は効果覿面だったようだ。
彼の一言で激高した敵の目標が、目の前の二人から真後ろのクロードへと切り替わった。
狙い通りだった。
複数いるが、今のクロードの敵ではない。
上手く『挑発』できたことにふと余裕の笑みを漏らし、剣の柄を握り直して迎え撃つため走り出した。
それから間もなく、戦闘は無事に終了した。
クロードが敵をひきつけてからレナの魔法は発動し、プリシスを回復させることができた。
ほっとした笑顔の少女二人を見ながら、クロードも安堵の溜息を漏らした。
それにしても、と思った。
咄嗟のこととはいえ、自分で『光の勇者様』とは。
あの『挑発』を思い出し、クロードは小さく苦笑した。
ぱたぱたと二人が駆け寄ってきたのはそんな時だった。
「クロード、さっきはありがとう。」
「助かったよ!ありがとう!」
レナとプリシスが口々に感謝の言葉を述べる。
「いや、いいんだよ。二人とも無事でよかった。」
にっこりと微笑んでみせる。
彼女達の笑顔を見ると、『挑発』の内容がどうこうよりも、二人が無事でよかったと本当に思った。
しかし。
「ねぇねぇ!」
「それよりも!」
二人の顔がずいっとクロードに迫った。
「な、なんだい?」
普段は見られない二人の迫力に、クロードは思わずたじろいだ。
「クロードは、やっぱり光の勇者様だったのね!?」
「クロードは、やっぱり光の勇者様だったんだね!?」
二人の声が綺麗にハモった。
「…………………………………。」
「はあっ!?」
自分でも驚くくらいの大きな声だった。
あなりにも衝撃的な二人の言葉が、頭の中を駆け回る。
(「やっぱり光の勇者様だった」だって?な、何を言っているんだ??)
引きつったような微妙な笑顔で固まったままのクロードに対して、レナとプリシスは畳み掛けるようになおも迫った。
「だって、さっき言ってたもんね。」
「そうよ、自分で言ってたじゃない。『光の勇者様』って。」
きらきらと輝いた二人の目が、クロードを真っ直ぐに見上げている。
―――無理もない。
レナとプリシスは、『光の勇者』の言い伝えを信じていた。
といっても、この二人に限られたことではない。
この惑星エクスペルではほとんどの人間――正確にはエクスペル人――がその言い伝えを信じている。
エクスペルが危機に曝されたとき異国の戦士がそれを救う、簡単に言えばそんな内容である。
よくあるおとぎ話のようなものだ、と機械文明の進んだ地球で生まれ育ったクロードならば済ませるのだが、
地球よりも遅れていて原始的な、しかし紋章魔法のような独自の文明が息づいているエクスペルでは、
危機に曝されている、というのもおとぎ話では済まされない状態なのだ。
そんな時に突如現れた異国の戦士――それがクロードだった。
“偶然”なのか“運命”なのか――クロードは“事故”だと思っているが――、言い伝え通りのことが起こったのだ。
これを信じないエクスペル人は、この惑星にはいないだろう。
クロードと出会ったばかりの頃のレナもそうだった。
彼を、エクスペルを救う異国の戦士『光の勇者』だと信じきっていた。
紆余曲折を経て、今ではクロードを『光の勇者』ではない、ということになったのだが、
やはり心の奥底ではそれを諦め切れなかったのだろう。
クロードも「迷惑」の一言で済ませられることではなかった。
この旅を始めて随分と経つ。
エクスペルの現状を目の当たりにして、一番の目的は地球への帰還方法を探ることに変わりはないが、
この惑星のことを少しずつ考えるようになってはいた。
だから、レナとプリシスの、クロードの『光の勇者』発言は気持ちがわからなくもない。
わからなくもないけれど。
「―――いや、あれは咄嗟の一言でね…。」
ははは、と乾いた笑いを漏らしながら、クロードは目の前で両手のひらを振る。
腰は若干引き気味だ。
「でも、言ったじゃない。」
「『光の勇者様に勝てると思ってるのかい?』って。」
「それでも、深い意味は無いよ。」
「えー。」
「でも。」
二人の押しは留まるところを知らない。
逆にクロードはずりずりと後ずさりを始める。
「お待ちなさい、二人とも!」
かつ、とヒールの音を立てて現れたのは。
「オペラさん!」
三人の顔が一人の女性の方へと向けられた。
黒いロングスカートをなびかせて、すらりと伸びた足がスリットの間からのぞいている。
クロードのものと似たジャケットを羽織っているのは、彼女――オペラもまた異国の人間だからである。
オペラはつかつかと歩み寄ると、三人の顔を順番に眺め、最後にクロードににっこりと微笑んだ。
「クロードは、『光の勇者様』なんかじゃないわ。」
レナとプリシスの二人に向かって、そう言い放った。
(ああ、天の助け…!)
ぽかんとしている二人には悪い気がするが、オペラが救世主のように見えた―――が。
「クロードは、『私の勇者様』よッ!!」
「!?!?!?!?!?!?」
ずるう、と豪快に仰け反ったのはクロードだけだった。
オペラの爆弾発言に、レナとプリシスが間髪いれずに激しく抗議の声をあげた。
「エェーッ!?」
「そんなっ、ズルイですーっ!!」
「オホホホホホホホ!」
三人の大騒ぎする声を聞きながら、クロードは激しい脱力感に襲われるのだった。
(ど、どういうことだよ、これはぁ~~~………)
そして、四人の傍にある木の陰では。
「プ、プリシス…!そんなぁ~~~…!」
始終を目撃していたアシュトンがどんよりとした影を背負ってしくしくと泣いていた。
完