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『 ファイアーエムブレム聖戦の系譜 』と『 Zill O'll 』中心の二次創作テキストBlog
「 ト リ ソ ラ 」は、原作ファンによる非公認の二次創作テキストBlogです。
版権元及び関係者様各位とは、一切関係ありません。
また、版権元に対する権利侵犯・不利益を目的とするものでもありません。

Japanese Version Only
since : 2007.02.05

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 たったひとつの 

ぼやけた視界に映った景色は自分の部屋のものではなかった。
二、三度ゆっくりと瞬きすると思考もゆっくりと動き出したようで、今自分が置かれている状況が理解できた。
カーテンから洩れる光で朝であることが分かったが、気だるさの残る身体を動かす気にはなれず、
安っぽいサイドテーブルに置かれた腕時計を引き寄せると、まだ充分時間はある。
もう少しこうしていたいという欲求に身を任せることにした。

ごろん、と寝返りをうつと、未だうっすらとぼやけた視界に映ったブラウンの長い髪に一瞬どきりとした。
背を向けて寝ている女性―――おかげで漸く昨夜のことを鮮明に思い出すことができた。
小さな寝息に合わせて上下する細い肩に、緩やかに波打つ髪がかかっている。
レノは目の前のその長い髪へと手を伸ばし、そっと梳いてみた。
ごわごわとした感触に、少しだけ落胆した。
昨夜街灯の下で見たときは「似ている」と思ったが、朝の陽の明るいところで見ると
「ちがう…か?」
やはり、「似ている」程度だった。
彼女の髪と。

「う~ん…。」
女が寝返りをうった。
ブラウンの髪はするりとレノの手を離れ、代わりに気の強そうな女の顔が間近に迫った。
すらっとした眉に、ぷっくりとした口元には小さなほくろがひとつ。
「…ちがう、か。」
もう一度、ぽつりと呟いた。
出した手を引っ込めようかどうしようか一瞬悩み始めたのと同時に、女が目を開けた。
眉根を寄せた寝起きの切れ長の目がレノを映す。
茶色い瞳をしていた。
「…何が違うの?」
手はとりあえずそのままにしておくことにして、
「…いや。なんでもない。」
所詮は、別人だ。

 

古臭い木の扉を開けると、目の前には神秘的とも言える光景が広がる。
舞い上がった砂埃ですらその空間を彩るパーツになる。
そして、こんな古ぼけて半壊した教会の中に、一人の少女の後ろ姿。
後ろで束ねている長いブラウンの髪が、穴の開いた屋根から差し込む陽の光に照らされているのを見て、何故だかほっとした。

少女は小さな花壇の前にしゃがみ込み、ただもくもくと土を掘り返しているだけ、にレノは見えた。
そっと足音を忍ばせて近づいて、
「よ。」
少女の頭の上から声を掛けてみた。
「あら。」
特別驚いた風も無く、エプロンについた埃を払いながら、少女――エアリスが立ち上がった。
「今日はちょっと遅かったんじゃない?」
言いながら、首をちょっと傾げるのは彼女の癖だった。
「そうか?…ひょっとして、おねえちゃん、待ってた?」
顔を覗き込むようにしてそう言うと、エアリスの頬がさっとピンク色に染まった。
「そんなわけ、ない!」
つん、とそっぽを向いたその様子がおかしくて、レノはくつくつと笑いを漏らした。
それが気に障ったのか、エアリスは「もう!」と更に背を向けてしまった。

彼女の背中で揺れている、緩やかに波打つブラウンの髪に思わず目を細める。
今朝と同じように、そっと手を伸ばして梳いてみた。
さらりと流れるような感触が心地良かった。
「…レノ?」
振り向いたエアリスは、少し驚いたような、そして訝しがるような目でレノを見上げた。
まあるく弧を描いたような細い眉に薄桃色の唇。
レノは昨夜の女性を思い浮かべてみたが、どうしても顔はうすぼんやりとしか思い出せなかった。
「全然、ちがう、な。」
ふ、と自嘲気味に笑うレノに対して、エアリスは首を傾げて「レノ?」と名前を呼んだ。
エメラルドグリーンの瞳が、レノをはっきりと捉えていた。
吸い込まれるようなその瞳の深い色は、男の心をふんわりと包み込むような、優しい色をしている。
たったひとつしかない瞳、たった一人しかいない少女。
たったひとつしかない瞳は自分を捉え、たった一人しかいない少女を今この空間で独り占めできていることがたまらなく嬉しくなった。
「なんでもないぞ、と。」
伸ばした片手のひらでエアリスの頬に触れると、一瞬少女は肩をこわばらせたが、ゆっくりと目を閉じて、
ふたりの唇が重なった。

 

fin



あとがき↓

「たったひとつの」「たったひとつの」って打っていたら、「"たった"って…なに…?」というゲシュタルト崩壊に辿り着きました。

レノも男の子だしね。



09.05.18

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