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ある日の野営中の、焚き火を囲んでの夕食時。
リズは隣に座っているレーグの手元に、ふと目が止まった。
「レーグ。そのカップ、小さくない?」
スープを飲もうとしていた男の手が止まった。
「…これか?」
「うん。」
そのカップは、たしかに小さかった。
ただし、レーグの物だと見て、である。
リルビーが持てば少し大きいかもしれないが、人間やコーンス、ドワーフでちょうど良いサイズの物だろう。
なんにせよ、ボルダンであるレーグが使う物としては、少々小さすぎるように見える。
「気に留めたことは無い。」
実に彼らしい返答に、リズは「そっか。」とだけ答えると、次にはもう別のことが頭の中に浮かんでいた。
それから数日後。
「はいっ、レーグ!」
ドワーフ王国の宿屋にて。
レーグの部屋を訪れたリズは、彼の目の前に簡易包装された包みを差し出した。
「なんだ?」と訝しがるレーグを、「開けて開けて。」と促す。
かさかさと音を立てて包みを解くと、中から出てきたのは一個のマグカップ。
赤銅に近い色合いで、見た目的にも、レーグの身体と比べてもぴったりの大きさ。
「色がね、あんまり種類が無くって…でも、良かったら使って?」
持ち上げると、軽くて、ついでに壊れにくい、冒険者の食器に適した材質で作られていることが、
さすがに、物事にはあまり頓着しないレーグでもわかったようだ。
「これは一体、どうしたのだ?」
「ん。作ってもらった。ドワーフの鍛冶屋さんに。」
つまりは、特注品。
もちろんボルダン用に作られた食器は各国でも売っているのだが、
リズとしては、絶対に必要な物だし長く使う物だし、せっかくプレゼントするんだから最高の物で選びたい。
それに、とリズは思う。
大切な人にずっと使ってもらいたいし。
「…そうか。」
簡潔な説明しか受けてないけど、あれで納得したのか、レーグは手に持ったカップをまじまじと見つめてから、
「礼を言う。」
よく陽に焼けた褐色の肌の大男が、ふわりと口元を微かに緩ませた。
喜怒哀楽の表現が乏しいレーグのことだから。
「…どういたしまして。」
その表情がとても嬉しくて、リズは満面の笑みでそれに応えた。
fin