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目的地の町に着き、用事を済ませたら、待ちに待った自由時間。
意中の相手と奇跡的に恋仲になれたユーリスは、うきうきしながらウィルの隣を歩いていた。
『アカデミー始まって以来の最凶劣等生』と言われる彼女も、恋をすると普通の少女と変わらない。
無邪気な笑顔は小さな子供のようだ。
「どこ見るかなー。」
「ウィルさま!あのお店に行きましょう!」
「あぁ?ってなんだあの怪しげな店!?」
何気ないやり取りだけど、ユーリスにとっては楽しくて仕方が無い。
しかめっ面のウィルのことは、あまり気にならない。
今一番気になるのは、「好きな人と恋人同士のように振舞うこと」の一点である。
「ウィルさま、ウィルさま。」
ぴょん、と飛び跳ねながら、ユーリスは少年の腕に手を絡めた。
そしてそのまま身を寄せ、心の中ではガッツポーズ。
「うおっ、なんだよ。」
「あっちのお店も見てみましょ~。」
ちらり、とユーリスが指差す方を見てから、「わかったよ」と渋々という風に答える。
が。
「あんまりくっつくなって!」
絡めていた腕を振り解かれてしまった。
きゃっ、と小さな悲鳴を上げたユーリスは目をぱちくりさせたが、また無邪気な笑みに戻る。
「あらあら~。ウィルさま、さては恥ずかしがってますね~?」
「アホかっ。」
「いくら私がかわいいからって、そんなに恥ずかしがらないでください~。」
「お前、本物のアホだろっ。」
そうやってわいわい騒いで、埒が明かないと思ったウィルはさっさと早歩きになってしまった。
「あっ、待ってくださいよ~。」
小走りで慌ててついて行くが、少年は背を向けたままずんずん進む。
見失わないように、けれど気を緩めると人込みに紛れてしまいそうだった。
(ウィルさま、怒っちゃったかな?)
依然として前を歩く少年の背中を見つめながら、ユーリスは思った。
(うぅ~。)
突き抜けて無邪気な彼女は、小さな子供のように頬を膨らませて少年の背中を見やる。
(ひどいです~。)
好きな人と恋人同士のように振舞いたいのに。
腕を組んだり手をつないだり隣を歩いたり。
せっかく、両思いになれたのに。
「これじゃあ、片思いのときと変わらないです~!
―――わぷっ。」
突然足を止めたウィルの背中に、おもいきり鼻からぶつかった。
「…ウィルさま~?」
振り返った少年は呆れ顔。
しかし。
「…裾なら許す。」
「はい?」
きょとん顔で小首を傾げるユーリス。
そんな彼女を気にもせず、ウィルは再び踵を返した。
「ほら。行くぞ。」
「あっ、はいっ。」
ふわふわと心の中に広がる暖かい気持ち。
ウィルの言葉の意味がわかったユーリスは、満面の笑顔で少年の服の裾を掴んだ。
「ウィルさまー。」
歩きながら、ユーリスは少年の名を呼んだ。
ついでに、きゅっと掴んでいる裾を左右に振ってみた。
「なんだよ。」
一歩前を歩くウィルは振り向くことも立ち止まることもしない。
そんなことは気にならない。
歩く速度が先ほどとはうって変わってとても穏やかなことが、嬉しくて仕方が無い。
「今回は、これくらいで勘弁しておきますね。」
「こっちのセリフだ!」
ウィルは背を向けたままだったが、笑ったような気がした。
それがさらに嬉しさを倍増させたので、ユーリスは自分の指先が掴んでいるウィルの服の裾を目を細めて眺めた。
fin