[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
薄墨色の空が広がる。
それを見ていると、またこの季節がやってきた、と陰鬱な気持ちになる―――のは、以前までの話。
吐き出された息は真っ白な靄となって空へと舞い上がるが、
はらはらと舞い散る雪と周りの景色に溶け込んで消えてしまう。
レヴィンは見上げていた視線を正面へと移した。
先にいるのは、赤いコートに身を包んだ少女。
白い地面にあるいくつものへこんだ足跡は彼女のもの。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、落ち着きが無いその姿はまるで雪兎のようだ、とレヴィンは目を細めた。
雪国生まれ雪国育ちのレヴィンにとって、雪は珍しいものでもなんでもない。
どちらかと言えば見慣れたもの、うっとおしいもの、その程度。
しかし、視線の先ではしゃぎまわっている少女にとって、雪は珍しいものになるらしい。
少女――ティルテュの故郷がある大陸は、シレジアほど雪は降らない。
積もりはするけれど、「なんだかね、雪の質が違うの。」とティルテュは笑った。
上着のポケットに突っ込んでいた手を伸ばし、地面に積もった雪を掬い取ってみた。
冷たくてしっとりとした感触。
ぎゅっと手を握ると、白く光る塊になった。
――懐かしい。
こうして雪に触れたのはどれくらい振りだろうか、と考えているうちに、手のひらの雪は消えてなくなった。
当たり前のような雪の儚さ。
改めてそれに気づかされたのは、ティルテュのお陰だ、と思った。
ほんの少し触れてみただけなのに、指先は赤く冷たくなってしまった。
手のひらに残った水滴を振るい落とすと、レヴィンは再び上着のポケットへと手を仕舞いこんだ。
ふと、視線を戻すと。
ティルテュはしゃがみこみ、小さな雪玉を作っては積み上げる作業に没頭している。
彼女の足元には、小さな雪だるまが並んでいた。
さくさく、と雪を踏みしめて、レヴィンはティルテュへと歩み寄った。
「何してんだ、ティルテュ。」
問わなくても見てわかるが、少女の隣にしゃがみこむ。
「雪だるまを作ってるの。」
弾んだ声でティルテュが答える。
両手のひらで小さな雪玉を作っている。
「レヴィンも、小さい頃はよく雪だるまを作って遊ばなかった?」
「ああ、やったな。」
小さい頃は雪が降り積もるのが嬉しくてはしゃぎまわって遊んでいたが、今ではそんな気分にはなれない。
にこにこ笑いながら雪だるま作りに励んでいる少女を見ていると、小さい頃の自分を見ているようだった。
寒さで赤く染まった頬、鼻先、指先。
そんなこともお構いなしに駆け回っては楽しそうに笑っていた小さい頃。
「…手、冷たいだろ。」
レヴィンはティルテュの両手を掴んだ。
不意をつかれたティルテュは目を丸くする。
「あ。」
「うわ、つめて。」
そう言って苦笑し、少女の赤い指先を自分の両手で包み込む。
少女の手の冷たさを奪うように、自分の手のひらの熱が伝わるように。
「…あったかい。」
ぽつりと呟いたティルテュは、ふふ、と笑みをこぼした。
「レヴィン、おばあちゃまみたい。」
「おばあちゃまかよ。」
ごつん、と額をくっつけた拍子に触れ合った鼻先。
「冷たいな。」
「ほんと、冷たいね。」
はらはらと舞い散る雪の中、二人の笑い声が響いた。
fin