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ウィルとナッジがまったりとくつろいでいる部屋へ、ばたばたと足音を響かせながら一人の少女が現れた。
「ウィル様!ナッジ様!できましたっ!」
にこにこと眩しい笑顔の少女に、返す言葉を失っている少年二人。
ふ~、と汗をぬぐう少女の額や頬や鼻先が煤けてほんのりと黒くなっている。
白いブラウスや水色のスカートも、どことなく煤けているように見える。
ということは。
ウィルとナッジは無言で互いに目を見合わせた。
――またロクでもない魔法を発明したんだ。そうに違いない。
互いの目がそう言っていた。
「…なにができたんだい?ユーリス。」
「うふっ、それはですねぇ、とってもとってもすごい発明ですっ!」
『嘘だ!』と、声に出さずともウィルとナッジの心は一致していた。
キャッ、と頬に手を当ててそわそわしているユーリスに対して、ソファに腰掛けているウィルは露骨に疑いの目を向けていた。
それを上機嫌の彼女に悟られないように、ナッジが苦笑しながらそっとたしなめる。
「…で、今回こそは大丈夫なんだろうなぁ?」
ウィルのこの発言に、ユーリスは頬を膨らませた。
「今回もっ!大丈夫ですっ!」
「“も”じゃねぇ!」
二人の様子を見ながら、ナッジは苦笑まじりに肩をすくめた。
街から少し離れた森の中――を選んだのは、万が一に備えて。
エンシャントのアカデミーやアミラルの宿屋のようになってしまってはたまらない、という二人の配慮に寄るものだ。
そんな二人の気も知らないで、ユーリスは初魔法のお披露目に張り切っている。
彼女の後姿を眺めるウィルのナッジの目が寂しい。
「…ナッジ、どう思う?」
「どう思うって…まあ、君と同じことだと思うよ。」
「だよなぁ。」
「だよねぇ。」
ぼそぼそと会話している二人をついにユーリスが遮った。
「準備できましたよー!ウィル様、ナッジ様、見ててくださいねーっ!」
ぶんぶんと嬉しそうに手を振るユーリス。
「気をつけてねー…。」
引きつった笑顔で控えめに手を振り返すナッジ。
「生きて帰れますように…。」
天に祈るウィル。
こうして、ユーリスの魔法お披露目会が始まった。
「…………………………。」
呪文を唱えるユーリスの足元に、怪しげな魔法陣が浮かび上がっている。
その魔方陣から吹き出ている風があたりを包み込むように吹き荒れ始める。
見た目はしっかり『魔法詠唱』のシーンだ。
「お~、なんか本格的だね。」
「…まだわかんねぇぞ。」
少し離れた場所で見守るウィルとナッジ。
いい感じに進んでいるように見えるが、油断はならない。
なぜならユーリスだから。
いつの間にか空も曇っているようだが、気のせいだろうか。
「~~~~~~~えいっ!」
気合を込めて愛用のステッキを一振りすると、魔方陣から一気に煙が放出された。
続いて、大きな爆発音と共に飛び上がる火の玉――らしきもの。
「お~…。」
ウィル、ナッジ、ちょっと離れてユーリスの三人が、上を見上げながら同時に同じ声を漏らす。
「成功、なのかなぁ…?」
「いやー、まだ信じらんねぇな…。」
そのとき。
「ア!!!」
空を見上げ続けていた三人が、またも同時に同じ声を上げる。
飛び上がった火の玉――らしきものが、空中で弾けた。
弾けたそれらは七色に輝き、四方八方へ飛び散り、芥子粒がきらきらと地上へ降り注いできた。
「やりましたっ!ウィル様!」
きゃーっと嬉しそうに笑顔を振りまいて、ユーリスはウィルの元へと走り寄ってきた。
「ねっ、ねっ、今回も上手くいきましたでしょう?」
「“も”じゃねぇ!」
再び始まった二人のじゃれあいに、ナッジは再び苦笑まじりに肩を落とした。
しかし。
「ん?」
「はい?」
「あぁ?」
異変に気がついた。
四散した芥子粒は落下しながらもきらきらと輝いていた。
途中で消えるかと思っていたそれは、落ちてゆく速度で赤々と燃え始めている。
小さいながらも、立派な火の玉――のように見えた。
「あらら?」
「なんだか…嫌な予感。」
「だから言っただろ、信じらんねぇって…。」
無数の小さな火の玉が、三人の頭上に降り注いできた。
「ごめんなさい、ウィルさま~。」
「ったくよー。」
宿屋の一室に、三人は戻ってきていた。
身なりは煤けてぼろぼろ。
髪の毛も、ほんの少し焦げてチリチリになっている。
その姿から、何事かあったのかが容易に想像できるだろう。
地面に生えていた草花にも飛び火したが、もちろん水魔法で消してきた。
「また、前回と同じじゃねぇか!」
「うぅ…ごめんなさ~い。」
「でも、一大事にならなくて良かったじゃない。」
焦げてしまった上着を脱ぎながら、苦笑まじりにナッジ。
ちらりと服の間から視線を向けた。
ぶつぶつと文句を垂れながらも、向かい合って座っているユーリスに回復魔法をかけているウィル。
しゅんと肩を落として、ウィルの顔についた煤を拭き取っているユーリス。
本人達がどう思っているのか知らないが、傍から見るとかなり意味深な二人である。
(まさか…ユーリス…。…わざと?)
そう思うと、落ち込んでいながらもユーリスの顔はどこか嬉しそうだ。
――とにかく。
二人の微笑ましい様子に、ナッジは思わず笑みを漏らした。
fin
あとがき↓
テラネ主・ウィルもナッジもユーリスも、初めて書きました。
書いてみての感想ですが…書けて良かった…!とりあえず安堵!ほっと一安心です!
最近ゲームしてないのでユーリスの口調がうさんくさいですが、ユーリスいいなぁ。
ちなみに、『確信犯』について。
今現在世の中に広まっている『確信犯』とは、「悪いこと(等)だと確信して犯罪(物事)を行うこと」の意味でだと思いますが、それは間違いです。本来の意味は、「自分の行動が正しいと確信して行われる犯罪のこと」を言います。詳しくはwikiで。
でも、今回の内容はどちらかというと間違ってる用法での『確信犯』です。ダメじゃん!
08.10.16