[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
見上げた夜空はミッドガルのそれよりも綺麗だった。
可愛らしいランプが並ぶ街並み。
家々から洩れるやわらかなひかり、賑やかな声。
雰囲気すらも、ミッドガルと全然違う。
エアリスの足元は、周りの景色に心が踊っているのを表しているかのようだった。
ちょっとだけ一人になりたくて、仲間には内緒で出てきてしまった。
ただ、なんとなく、一人になりたくて。
――本当?
自分自身に問いかけてみる。
――うそ。本当はね。探してるの。
すれ違う人、追い越してゆく人、たたずんでいる人。
周りの人を眺めながら、エアリスは心のどこかである人の姿を探していた。
いるわけない、いるわけない、と思いつつ。
視線は無意識に、だけど願うように似た人の姿を追った。
人気の無い街路地にさしかかったとき。
エアリスは我が目を疑った。
特殊な制服を着た三人組の後姿。
その三人に向かい合うようにして、こちらを向いて立っているスーツの男。
石化でもしたかのように立ち竦んでいるエアリスを、男がちらりと見た。
目が合った瞬間、エアリスは物陰に隠れた。
「――じゃ、お前らは先に行ってろ。」
「了解!」
話し声の後に聞こえてきたのは、奥へと走り去っていく足音。
そして、こちらへと近づいてくる足音がひとつ。
「……おお。」
まさか、と思ったのだろう。
スーツの男――レノはほんの少しだけ目を見開き、
「久しぶりだな、と。」
「…ほんと、ね。」
レノの姿を見つけた瞬間に跳ね上がったエアリスの心臓は、どきどきと波打ったまま。
今だって、この音が聞こえるんじゃないかというくらい高鳴っている。
嬉しくて嬉しくて、つい頬も緩んでしまう。
「…偶然、だね。」
ああ、と答える代わりにレノは左右を見回し、
「…おねえちゃん、一人?」
「…うん。」
じゃあ、と言うレノの瞳がエアリスのそれを捉え、そのまま顔が近づいてきた。
目を逸らすことができず、ごくり、息を呑む。
「捕まえちゃうよ――と言いたいところだけど、只今任務中、と。」
すっと顔が離れた。
ほっとしたかのような、それとも期待はずれとでもいうような、小さな息を吐く。
「…あ、そう。」
「じゃあね。」
「待って!」
踵を返したレノの腕を掴んでいた。
立ち止まり振り向いたレノの瞳と重なる、エアリスの瞳。
まるで地上に落ちた星のよう。
「…会えて、とっても、嬉しかった…。」
エメラルドグリーンの瞳が微かに潤んだように見えたのは、夜の光に照らされているからだろうか。
「………。」
ゆるゆるとエアリスの頭が下がってゆく。
頬が微かに色付いているのも、夜の光のせいだろうか。
不意に、エアリスの肩にレノの手が触れた。
瞬間、心臓が飛び跳ねて体が強張った。
そのまま、レノは俯いたエアリスの耳元に唇を寄せて、
「この先の店で。」
――待ってて。
エアリスがはっと顔を上げると、レノはもう背中を向けて走り出していた。
相変わらず胸はどきどきと高鳴っていて、組んだ両手の指先が震えている。
密かに願っていた偶然の出会い。
「…レノ。」
夜の闇へと消えてゆく背中を見つめながら男の名を呟いた。
fin