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数年ぶりに見た顔は、かすかな記憶の中にあるそれよりも少しだけ大人びたようで、
数年ぶりに聞いた声も、かすかな記憶の中にあるそれよりも大きな優しさを帯びているように感じた。
けれども、彼に対する思いだけは、かすかな記憶の中で消えることなく奥深くでひっそりと息づいていたのを、アルテナは今日初めて知った。
「フィン…。」
名前を呼ぶだけで精一杯だった。
どこか物悲しい懐かしさと愛しさで、目の前にいる人物を捉えている視界は涙で滲んだ。
「アルテナ様。」
声のトーンは低く、優しく、まるで父親のようなイメージを抱かせて、心がぎゅっと締め付けられる。
「私はアルテナ様の幼い頃のお姿しか記憶にないものですから…。」
と、フィンははにかんだような微笑を向けた。
かすかな記憶の中で、その微笑だけは変わっていない。
無意識なのにそう確信できるのは、やはり奥深くでひっそりと息づいていたもののおかげかもしれない。
「…お美しくなられましたね。」
そう言ってフィンは目を細めた。
まるで我が子を見つめているかのような、優しい目。
その瞳も変わっていないはずなのに、やはり感じるほのかな寂しさで、ちくりと心が痛む。
痛むのに―――
「フィン…。」
もう一度名前を呼んだ時には、声は擦れていて頬を一筋の涙が伝い落ちた。
そして、気がつくと、彼の胸に顔をうずめて泣いていた。
まるで小さな子供のように。
たしかに、わたしの心の中にはこの熱の記憶がある。
温かな熱が変わっていないことにほっとした心地がする。
それは寂しさで満たされていた心と溶け合って、せつなくてせつなくて涙が溢れた。
そっと背中に回された腕は、まるで小さな子供をあやすように優しかった。
たしかに、彼の心の中には幼い頃のわたししかいないんだわ。
だけど、わたしの心の中にあり続けた思いは変わってはいないのよ。
fin