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「セラも、いかがですか?」
ルインが差し出してきたものを一目見て、セラは眉間に皺を寄せた。
「いらん。」
ぷい、と横を向かれてルインはそうですか、とくすくす笑いながら一言呟いた。
彼女が差し出してきたものは、銀色の紙に包まれた濃い色をしたチョコレートだった。
セラは甘いものが苦手だった。
女――特に身近にいるルインが、どうしてこんな甘いものを好んで食べるのかが理解できない。
「でも、セラ。これはビターチョコレートだから、食べられるかもしれませんよ?」
「いらん。」
「疲れたときには甘いものが良いって、ロイ兄さまが言ってました。」
そう言われて、思い浮かべる親友の顔。
(そういえば、やつも甘いものが好きだった。)
まったくこの兄妹は――と、なかば呆れた顔でルインを見た。
「別に疲れてなどいない。」
セラが呆れているとも知らず、ルインはにっこりと微笑む。
「ちょっとだけで良いですから。」
何故そこまで、この少女は頑なに勧めてくるのだろう。
「これね、アトレイア様が作って下さったものなんです。」
だからセラも、とルインは再びチョコレートを差し出してきた。
ね、とにっこり微笑み追撃をかましてくる。
セラはこの無垢な笑みに弱くなっているのだ。
長い間ずっと一緒に旅をしてきて、それを実感していた。
「…少しだけだぞ。」
大きなため息を吐きとうとうセラが折れると、ルインは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。」
銀色の包みの中から、小さな破片を掴む。
ほんの小さな破片なのに、甘い匂いが漂ってきた。
ちょっとだけ顔をしかめ、ルインを見やる。
ルインは子供のように目を輝かせて、セラの様子を伺っている。
「………。」
もう一度大きなため息をつくと、セラは破片を口の中に放り込んだ。
口の中に広がる、とろけるような甘さとほのかな苦さ。
「…どうですか?」
ルインが首を傾げてセラを見上げてくる。
「……甘いな。」
しかめっ面のまま、セラはそれだけ答えた。
「美味しかったですか?」
「……わからん。」
セラの渋顔を見て、ルインはやはりくすくすと笑った。
ルインは美味しそうにチョコレートを頬張っている。
セラはセラで、水筒の水をひとくち口に含んだ。
口の中に残っている甘さがどうしても気になる。
「…ルイン。」
「はい?」
ふいに名前を呼び、すぐ隣にいる少女が顔を上げた瞬間――
その紅い唇にキスをした。
「!?!?!?」
突然の出来事に、ルインは頬をさっと紅く染めて目を白黒させている。
「なっ…なんですか!?」
手の甲で唇を押さえで真っ赤になっているルインに対し、セラはいつもと変わらない表情。
「くちなおしだ。」
「…そ、そんなこと…!」
「でも甘いな。」
その一言で、ルインの顔はいっそう紅くなった。
fin