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ユリアが風邪をひいた。
「日頃の無理がいけなかったんじゃない?」とは、看てくれたラナの談。
確かに、シスターであるラナと共に人々の治療を請け負っていたユリアは、
ここ最近までずっと医務室に通いつめていた。
日々激化している戦いの中では、忙しくなるのも仕方がないとしても。
恋人であるアレスと過ごす時間も削るほど、とはどういうことだろう。
扉の前で眉根を寄せて渋い顔をしているアレスの横を、部屋から出てきたラナが苦笑しながら
「ちゃんと見ててあげてね。」とすり抜けていった。
それと入れ替わるようにして部屋に入ると、窓辺のベッドに上半身を起こしたユリアと目が合った。
熱のせいで顔が赤い。
もともとが白い肌だから、熱があるということはすぐにわかった。
「アレス。」
彼女はにっこりと微笑んでみせたが、かつかつと歩み寄るアレスは渋顔のまま。
ユリアは直感的に「怒ってる」とわかり、困ったような笑みを浮かべた。
アレスはベッドサイドにある椅子に腰掛け、目の前のユリアの額に手をあてた。
反射的に、ユリアが瞳を閉じる。
長い睫毛が朱に染まった頬に影を落とした。
それがまるで小さい子供のようで、一瞬愛らしいと思ったのだが、そんな場合ではない。
手のひらが熱い。
ふう、と大きな溜め息をひとつ漏らし、アレスが口を開いた。
「どうしてこんなになるまで、俺に言わなかった。」
「どうして、って…。」
ユリアは口籠もり、うーんと首を傾けた。
「…アレスに心配をかけたくなかったから…。」
「その結果がこれだろう。」
「……ごめんなさい。」
しゅん、と細い肩を落とした少女を見て、アレスはもう一度溜め息を漏らした。
「まったく。」
そうは言ったものの、アレスの表情はふと穏やかになった。
今までなかなか会えなかった時間とか風邪をひいたことよりも、
今こうしてようやく二人きりになれたことが嬉しい。
「まあいい、休め。」
「…はい。」
アレスがシーツに手を掛けると、ユリアは上半身を横たわらせた。
そのまま彼女にシーツを被せる、その前に―――。
「ああ、そうだ。」
「?」という顔をしたユリアの上を影が覆う。
アレスの顔が近づいてきた、と思ったのは一瞬で、一つ瞬くと唇に温かいものが触れていた。
「…!!」
「今までの分。」
それだけ言うと、目を白黒させているユリアをよそに、アレスは何度も口付けを落とした。
風邪がうつっちゃいます、と身を捩じらせても「いい。」の一言で一蹴されてしまった。
そして。
「…熱いな。」
そう言ってユリアの額に手を当て、意地悪そうに笑いながら彼女の顔を覗き込む。
ユリアの顔は耳まで真っ赤になっていた。
熱で潤んだ瞳で睨みつけられても、全く迫力がない。
むしろ愛らしくて吹き出してしまった。
「…アレスのせいですっ!」
それだけ言うと、ユリアはシーツを頭から被ってしまった。
彼女の様子に、アレスはくつくつと笑いを漏らしたのだった。
fin