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大事な話がある、と呼び出されて部屋に入るなり、ラクチェは待ち構えていた人物に目を丸くした。
「シャナン様!それに…レヴィン様、オイフェ様。」
自軍の中核ともいえる人物に加え、想いを寄せている人が並んでいる。
シャナンの顔を見て思わず嬉しくなったが、嬉しがっている空気でもない。
何事かあったのだろうか、と立ち竦んでいると、
「ラクチェか。まずは座ってくれ。」
「はあ…。」
空気が重いものでもなかったので、とりあえずはほっと小さなため息をつき、三人と向き合う形で席についた。
「もう一人、呼んでいるんだが…。」
レヴィンがちらりとラクチェの隣の椅子に目をやった。
それにつられて、ラクチェも隣の空席を見た。
「もうすぐ来るだろう。」
腕を組んだままのシャナンが答えた。
「?」
ラクチェがシャナンに目を向け首をかしげた。
シャナンに関係のある人物なのだろうか。
それから間もなく、ノックの音が部屋に響いた。
呼ばれたもう一人が来たのだろう。
「どうぞ。」
オイフェが答えたのと同時に、ラクチェは誰が来たのかと振り返った。
しかし、扉を開けて現れた人物を見て、口をへの字に曲げた。
「お邪魔しまーす!」
現れたのは、黄金色のおさげを揺らした少女・パティ。
明るい声が今の場に少々似合わない。
「シャナン様に呼ばれて来まし…」
にこにこしていたパティの顔が、はたと真顔になる。
「げっ、ラクチェ!」
「げ、はこっちのセリフよ!」
顔を合わせて早々始まったこのやり取りに、三人はやれやれと肩を落とした。
シャナンに呼び出されてうきうきだったパティの変わり様は露骨だった。
大事な話と聞いて期待して来てみれば、天敵がいて、しかも隣同士で座っている。
それはラクチェも同じだった。
この二人、恋のライバル同士として自軍内ではかなり有名だった。
どちらもシャナンに想いを寄せている。
ラクチェは従兄妹同士という強み、パティはその天真爛漫な性格で、シャナンに懐いていた。
困り果ててるシャナンを間に挟んで二人が口論する姿は、一種の見物になっている。
「あー、二人に大事な話がある。」
最初に切り出したのはレヴィンだった。
「なんですか?」
「黙って聞いてなさいよ。」
「む。」
また始まりそうになったのを、寸ででオイフェが止めた。
ごほん、と咳払いをしてレヴィンが続ける。
「二人に関係ある話なんだが…。」
顔の前で手を組みながら二人を見回すので、その真剣な眼差しにラクチェもパティも押し黙る。
「…ラクチェたちは流星剣が使えるな。」
「え?あ、はい…使えますけど…。」
突然の予期せぬ質問にラクチェは目をぱちくりさせた。
「流星剣が使えるのは、オードの血を引く者たちだけだ。」
「そうだ。」
これには、シャナンが答えた。
それで、とレヴィンがパティに目を向けた。
「パティは月光剣が使えるな。」
こくん、とパティが頷く。
なんだか、微かに、読めてきた。
「結論から言ってしまおう。ラクチェとパティは同族!以上!」
あまりにも簡潔すぎる言い方に、レヴィン以外の全員がぽかんとしてしまった。
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「…ぅうえぇぇぇぇえええ!?!?」
城内に、ラクチェとパティの叫びがこだました。
「と、いうわけで二人は同族なので仲良くしてくださいね。」
にっこりと穏やかながらも威圧感のあるオイフェの笑みに見送られ、二人は部屋を後にした。
「………。」
「………。」
どこへ行くとも決まっていなかったが、二人は同じ方向へと足を進めていた。
「まさか…パティがオードの血を…。」
「まさか…ラクチェと同族って…。」
はた、と二人の目線が重なる。
「んー、でもまぁシャナン様との繋がりができたからいっかー!」
「ちょっと!同族だからってシャナン様に迷惑かけないでよね!」
「それはラクチェも同じでしょ!」
むー、っと睨み合った後、
「ふんっ!」
二人は思い切り顔を背けて別々の方向に歩き出してしまった。
「…大丈夫でしょうか。」
二人が去った後の部屋。
まるで一仕事終えた、とでもいうようなため息をつきながらオイフェが呟いた。
いつもの二人の様子を見ていると、大丈夫な状態は来るのだろうか。
「心配はいらないだろう。」
そう答えたのは、意外にも二人の間に挟まっている人物、シャナンだった。
「ええ?」
オイフェが心配そうな顔を向けるも、シャナンは腕を組んだまま椅子に座り込んでいた。
「以前、ラクチェに聞いたことがあった。」
お前はパティが嫌いなのか、と。
すると、ラクチェはあっけらかんとした顔で答えた。
「嫌いなわけないですよ、友達ですもん。」
友達、とシャナンが聞き返すと、
「ええ。あたし、ああいうハキハキした子は嫌いじゃないです。
やっぱり、従姉妹のラナと似てるところがあるんですよ。」
わりと気が合うんです、とラクチェは笑った。
パティにも、同じことを問うてみた。
彼女もまた、からからと笑いながら似たようなことを言った。
「嫌いじゃないですよー。友達、でしょうか。ここのみんながそうなんですが、
ラクチェもあたしのことを盗賊だって馬鹿にしたりしませんもん。好きですよ。」
シャナンの話を聞いて、オイフェとレヴィンは顔を見合わせて吹き出した。
恋のライバルでもあり友達でもあり。
女の子というのは、まったく不思議なものだ。
顔を見合わせれば喧嘩ばかりの二人だと思っていたが、どうやら知らないところでは仲良くやっているらしい。
「それならば、安心ですな。」
「うむ。少なくとも、シャナンが血に染まることはないだろう。」
「おいおい…。」
三人の笑い声が、部屋内に響いた。
とは言っても。
「シャナン様から離れなさいよっ!」
「ふーん。べーっだ!」
「二人とも止めんか!」
この後もシャナンを間に挟んでの喧嘩は続いたのであった。
fin