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小さなノックの音がして、ベッドの上で上半身を起こすと同時に長身の男が入ってきた。
「…セラ。」
頬は熱を持っているお陰で赤く染まっている。
ルインは数日前から風邪をこじらせていた。
「…具合はどうだ?」
低い声。
だけど、不機嫌だというわけではないことは、一緒に旅をしてきて分かってきた。
セラはサイドテーブルに持ってきた盆を置き、ベッドわきの椅子に腰掛けた。
大きな手が、ルインの額にあてられる。
ひんやりとした心地良い感触に、ルインは目を閉じた。
「ごめんなさい、こんなことで足を引っ張ってしまって…。」
申し訳なさそうに俯くルインに、セラは額にあてていた手で彼女の髪を荒く撫でた。
「いいから、まだ休んでおけ。」
セラはサイドテーブルに手を伸ばし、盆に載っていた器を取って寄越した。
「…これは?」
両手で包み込むようにして受け取ると、白い湯気と甘い匂いが鼻をくすぐった。
ホットミルク。
セラが淹れてくれたものだろうか。
彼のことだから、聞いても答えてはくれなさそうだったので、ルインは微笑を向けた。
「…ありがとう、セラ。いただきます。」
こくん、とひとくち飲み込むと、優しい温かさが身体全体に広がっていった。
「…美味しい。」
ふとくち、ふたくちと口に運びながら、ルインはふと笑みを漏らした。
「…なんだ。」
「ロイ兄さまのことを、思い出しました。」
ルインのたった一人の実兄。
「小さい頃、わたしが病気で寝込むと、ロイ兄さまは必ずホットミルクを作ってくれたんです。」
セラが兄さまみたい、とルインは笑った。
「病気のときにホットミルクは定番なんでしょうか。」
「さあな。」
姉・シェスターの顔が思い浮かぶ。
そういえば、自分も風邪をひいたとき、姉がこうしてホットミルクを作ってくれた。
嬉しそうに微笑むルインの姿が幼い頃の自分の姿と重なり、セラは目を細めた。
fin