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勝利を収めた戦いの後、医務室には大勢の味方兵が溢れていた。
決して楽な戦いだったわけではない。
シスターであるエーディンや、杖を扱えるエスリン、その他大勢の女性達が忙しなく駆け回り治療に当たっていた。
それでも和やかな雰囲気であるのは、勝利を得たということが大きいだろう。
「アイラ様がこんなところにいらっしゃるなんて。」
椅子に座って右腕の包帯を解いているアイラを見つけて、エスリンは驚いた声を上げた。
アイラは苦笑する。
「いや、そんな大した傷ではないんだ。私のことは、後で良い。」
エスリンはアイラの正面の椅子に腰を下ろした。
「重傷の人たちのはほとんど終わりましたから、大丈夫です。」
そう言って、解いている途中の包帯に手を掛けた。
アイラも自然と手を離したので、そのまま傷の治療に移った。
「お珍しいですね。」
アイラが傷を作ってきたことを言っているらしい。
すべての包帯を取り終わると、エスリンは杖をかざした。
「自分でも、気がつかなかった。」
温かな光が右腕を包み込むと、傷跡が次第に消え始めた。
「応急手当は、ご自分でなさったんですか?」
「いや…。」
一人の男の顔が思い浮かび、アイラの心臓が小さく飛び跳ねた。
「ノイッシュが、やってくれたんだ。」
「まあ、ノイッシュが。」
アイラの口からノイッシュの名前が出たことに目を丸くした。
普段から二人が接触しているところを見ることがなかっただけに少々驚いたようだったが、
そういえば、彼ならこういうことをしそうだな、と昔からノイッシュのことを知っているエスリンは小さく微笑んだ。
「ノイッシュは、とても気が利くから。」
くすくす笑うエスリンに、アイラはほんのりと頬を染めて頷いた。
「そう、だな。」
アイラの柔らかな眼差しを、エスリンは意味深と捉えた。
「はい、終わりました。」
治療された右腕は、傷跡も綺麗になくなっていた。
右腕の感じはいつも通りで、なんの違和感もない。
ほっと一息ついた。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
エスリンがテーブルに置いた包帯を片付けようとしたとき、アイラが身を乗り出してその手を止めた。
「待って!」
「えっ?」
思わず止まった手の中から、アイラは包帯を引き寄せた。
そして、大事そうに胸元で両掌に包み込んだ。
「すまない、これは、持っていたいんだ。」
本人は平静を装っているつもりだろうが、頬は既に赤くなっている。
それに、先ほどの眼差しや言葉を考えて―――。
エスリンの顔が満面の笑みに変った。
「アイラ様ってば…そっかー、そういう事ですかー。」
意味ありげな笑みを浮かべながら肘で小突くと、アイラの顔は真っ赤に染まった。
「な、なんのことだ…!?」
「なるほどー。」
二人がわいわい馴れ合っていると、
「エスリン様。」
「!!」
アイラの動きが止まった。
エスリンを挟んで目の前にいたのは、苦笑しているノイッシュだった。
つい今しがた、彼の話題で馴れ合っていたところなのである。
アイラの心臓は今までにないくらいに高鳴っていた。
「あら、ノイッシュ。」
ノイッシュはアイラに一礼した後、エスリンへと向き直った。
「そんなに元気がおありでしたら、俺の治療も頼んでもよろしいでしょうか。」
「怪我をしていたのか?」
エスリンが尋ねる前に口を開いていた。
か細い口調のアイラに対し、ノイッシュは微笑みながら答える。
「大した傷ではございません。」
「そう…。」
ほっと胸を撫で下ろす様子を、エスリンは見逃さなかった。
「ご心配なされているのよ、ノイッシュのこと。」
「エスリン殿…!」
アイラの顔がさっと赤くなった。
笑みを浮かべるエスリンとわたわたと慌てるアイラにだったが、ノイッシュの反応は
「それは…お心遣いありがとうございます。」
いつも通りの堅いものだった。
「………。」
きっと、どんな意味なのかわかっていないのかもしれない。
エスリンは今までのノイッシュを振り返り、そんなことを思った。
しかし。
(それはそれで、おもしろいかも…!)
顔を赤くするアイラと微笑み佇むノイッシュの二人を見比べながら、エスリンは今後の展開に期待を寄せるのだった。
fin