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やわらかな日差しが降りそそぐ、ある日の午後。
その光を浴びた緑の香りが満ちている広い庭園に、小さな東屋がある。
風が木立を揺らす音と小鳥のさえずり以外には何も聞こえてこない。
まるでそこだけ時間が止まってしまったかのような空間の中には、
寄り添うようにして長椅子に腰掛けているセリスとユリアがいた。
互いの手を絡め、ユリアはセリスの肩に頭を預けている。
言葉を交わすことはなく、手から、肩から伝わる相手の熱を感じているだけで良い。
時折見つめ合い、寄り添う二人の様子は、長年連れ添ってきた夫婦のようだった。
「…いい天気だねぇ。」
「そうですね。」
二人の間を爽やかな風が吹き抜けていった。
ユリアの銀色の髪がその風にふわりと舞った時、甘い匂いがセリスの鼻先をくすぐった。
少女の細い肩に空いていた手を回し抱き寄せると、ユリアは子犬のように胸元に頬をすり寄せた。
その熱が、とても愛しい。
「ああ、このまま時が止まってしまえばいいのに。」
「それは困ります。」
夢の中にいるような表情のセリスとは対照的に、ユリアはやんわりと答えた。
「これからまたお部屋に戻って頂かないと、政務に差し支えます。」
「相変わらず、ユリアは堅いなぁ。」
「セリス様。」
「ぶー。」
遠目から見れば仲睦まじい恋人同士なのに、交わされる会話を聞けば現実を思い知らされる。
それでも、セリスはユリアと寄り添って言葉を交わすことが至福の時なのである。
普段は凛とした態度で王として振舞うセリスも、愛しい人と二人きりの時は子供のように甘えてくる。
「あー、なんだかあったかくて眠くなってきちゃった。」
ふあ、と大きな欠伸をひとつ。
「セリス様。」
「ユリア、膝貸してね。」
眉根を寄せたユリアが答えるより先に、セリスはころんと彼女の膝に頭を乗せて横になってしまった。
「もう、セリス様!そんな暇はありません!」
ユリアが抗議の声をあげても、セリスは気持ち良さそうに目を閉じている。
セリス様、ともう一度名前を呼んだ時、顔を覗き込んだユリアの髪がセリスの頬に触れた。
その髪を指に絡めたセリスがぱちりと目を開け、
「ひと眠りする前に、大事なこと忘れてた。」
上半身だけを起こしたセリスは、素早くユリアの頭を引き寄せた。
唇が重なる。
慣れ親しんだ柔らかいその感触が、とても気持ち良い。
いつもの、『眠る前のおやすみのキス』――。
「ほんの少し、休むだけ。」
目を瞬かせているユリアをよそに、眠る準備が完了したセリスは再び少女の膝に寝転んだ。
「せ、セリス様!もう!」
真っ赤に頬を染めたユリアだったが、こうなってしまっては何を言っても無駄だった。
大きな溜め息が、午後の日差しの中に溶けていく。
風が木立を揺らす音と小鳥のさえずりに、小さな息遣いが混ざる。
セリスの寝顔を見下ろすユリアの表情は次第に緩んでいき、
彼の額にかかった蒼い髪をそっとかき分けた。
優しくなぞるユリアの指先の感触は、まどろむ意識の中で、ひとときの幸せを感じさせた。
fin