[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
彼女は、考え事をしているとき口元に手を添えるのが癖だった。
口元に手を添え、書類と向き合う。
たいていはすぐに右手のペンを走らせるに至るのだが、
小さく唸る声が聞こえてくると、眉間にしわを寄せて書類を睨みつける。
そんな時、サフォークは決まって部下を呼びお茶の用意をさせた。
「ザギヴ、一休みしようか。」
そう言って、紅茶の入った器を差し出す。
書類と向き合っていたザギヴは、はっとして顔を上げる。
「…あ、ありがとう。」
ふう、と大きな溜め息をついて両手でその器を受け取る。
甘い香りが漂う紅茶を一口くちに含んでから、再び溜め息をついた。
張り詰めていた糸がふつりと途切れたように、全身から疲れが抜けたような気がして、
ザギヴは革の椅子にゆったりと沈みこんだ。
彼女の様子を見て、お疲れさま、とサフォークが微笑む。
それにつられてザギヴも微笑みを返したが、ふと思ったことを口にした。
「あなたがくれるお茶は、いつもタイミングが良いわね。」
器を両手で包み込んだまま、サギヴは隣に並ぶ青年を見やる。
「君を見ていれば、わかるよ。」
ザギヴの頬が、ほんのりと朱に染まった。
近衛将軍を務めているこの青年とは、思えば長い付き合いになる。
初めて出会ってから今現在まで、『ザギヴを放っておけないから』をいう理由で側にるのだが、ただの『皇帝と将軍』という関係ではないことは周囲も知っている。
ザギヴはそれをとても恥ずかしがっているのに、青年は意に介した様子もない。
人前であっても二人きりのときであっても、先ほどのようなセリフを平気で吐く。
カルラから言わせれば、「バカ正直な天然色男」だそうだ。
「考えてるときの仕草とか行き詰ったときの表情とか。」
いつも一緒にいるからね、とサフォークは笑う。
その笑顔には裏というものが一切なく、本人は何気なく言っているつもりだろうが、
目の前にいるサギヴの頬はすっかり赤く染まってしまった。
「………。」
器を持って固まっていると、サフォークが伸びをした。
「そろそろ再開しよ…どうかした?」
サフォークが小首を傾げて覗き込む目は、まるで子供のようだ。
――端整な顔立ちのくせに、どうしてこういうところは鈍いのかしら。
「…なんでもないわ。」
残った紅茶をぐっと飲み干し、
「さ、再開しましょ。」
凛とした「皇帝」の声で言ったものの、その頬は赤いままだった。
fin