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鳥のものではない、大きな影が、真上から覆うようにして全身を黒く染めた。
その正体が分かったオイフェは顔を上げる。
無意識に唇の端がわずかに上がったのは、視線の先に見知った天馬と少女がいたからだ。
「オイフェさーん!」
手を振る少女――フィーの明るい声が響く。
抜けるような青空が良く似合う娘だ、と目を細めながらふと思った。
天馬はオイフェの乗った騎馬の真横に降り立った。
ふわり、と沸き立った風が耳元の髪をさらう。
フィーが弾ませた声で言った。
「オイフェさん、わたしを待っててくれたんですか?」
きらきらとした表情で尋ねられたオイフェは、一瞬戸惑った。
フィーは敵地の偵察に出ていた。
空を飛べる天馬騎士は、偵察に優れている。
地上から探るよりも空の上から探った方が効率が良い。
その代わり、危険値も上がる。
矢の範囲内に入ってしまえば、ひとたまりも無いだろう。
オイフェとしてはこの少女を危険な目には合わせたくは無かった。
しかし、敵の情報を少しでも多く得るには天馬騎士が適任だ。
自軍を勝利へと導くためには、私情を考えてはいられないだろう。
悩んでいたところに、フィーが現れた。
彼女はこの偵察役を自ら申し出た。
「わたしだって、解放軍の一員です!」
そう言う彼女をやんわりと止めはしたが、最後は押し切られてしまった。
オイフェは、彼女が城を飛び立ち、また戻ってくるまでずっと待ち続けていたのだった。
「…ああ。」
その様子を見れば、何事もなかったのであろうことが分かる。
それでもやはり、オイフェとしては聞かずにはいられない。
「怪我は無いか?」
「ありません。大丈夫ですよ。」
ころころと笑いながら両手を振ってみせた。
そうか、とオイフェの安堵した表情を見て、フィーは胸の高鳴りを押さえられない。
大好きな人が、そんなにも自分のことを案じてくれていたなんて。
嬉しくて、顔が自然とほころんでしまう。
フィーが偵察役をかって出たのには、理由があった。
解放軍の一員であることを、オイフェ自身に認めてもらいたかったのだ。
一人前の天馬騎士として、信頼を得たい。
「王女になにかあったら大変だからね。」
「………。」
その一言で、それまでのときめきが風船のようにしぼんでいった。
心の中で、やっぱりそうか、と肩を落とす。
シレジアの王女。
フィーは、想い人にそう思われていた。
事実ではあるのだが、そうであるから気にかけられている、なんて思いたくない。
解放軍の一人として、天馬騎士として、一人の女性として見て欲しい
――なんて、わたしにはまだ早いのかしら?
心の中で溜め息をつく。
「どうかしたのか?」
「い、いえ、なんでもありません!」
慌てて頭を振るフィーに、オイフェは首を傾げる。
恋心を抱いているなんて微塵も思ってないんだろう、とマイナス思考に走ってしまうほどの、オイフェの穏やかそうな表情が悲しい。
「さ、戻ろう。」
「…はい。」
踵を返したオイフェに気づかれないように、そっと溜め息をつく。
でも、とフィーは顔を上げた。
――気が付いたら、お城に帰るまで二人っきりってことじゃない!
心のときめきが持ち直したフィーは、愛馬をオイフェの許へと駆らせた。
fin