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そのキスは、一方的なものだった。
唇を離したとき、セリスは目の前にいるイシュタルを見て
氷のようだ、と思った。
氷のように冷めたキス。
それは、彼女の心の中に誰かがいるからだ。
先の戦いで、全てを捧げていた主を亡くしたイシュタルは、
それ以来自分の心さえも失くしたかのような有様だった。
感情の色を帯びていない瞳は鋭く冷たく、黒衣を身に纏った白い肌は人形のように、セリスの目には映っていた。
うつろな瞳の少女の頬を、ゆっくりと優しく撫でる。
白い肌は、やはり冷たかった。
「僕が、壊してあげようか。」
その心の氷を。
主を亡くし心を失くした自分に、セリスはあまりにも残酷だった。
「憎んでもいい。君が生きて傍にいてくれるのなら。」
主の後を追って自害することも赦されず、憎みながらでも生きてくれと彼は言う。
しかし、イシュタルは憎むことすら疲れてしまった。
いや、最初から憎んでなどいなかった。
あの時一緒に心を失くしてしまったのだから。
「どうにもならない愛のために、これ以上なにをするのですか?」
氷のような瞳から涙が溢れ、白い頬を伝う。
その涙も氷のように冷たく、まるでぬくもり全てを拒んでいるかのようだった。
「目を醒ましてください、セリス王…。」
「目を醒ますのは、君だよ。イシュタル。」
セリスは彼女の頬に触れていた手を離した。
触れているのも目の前にいるのも自分でも、彼女の瞳は遠くを見ている。
――その孤独が赦せないんだ
セリスは唇を噛んだ。
「…愛してるよ、イシュタル。」
「………。」
どこにも行けない愛は氷の迷宮を彷徨う。
辿り着かない痛みに耐えながら、再び唇を重ねる。
目を醒ましてよ、いますぐ。
fin