[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
夕食を終え、みなが自由に過ごしている時間。
ヴェイクは一人の少女を呼び止めた。
「おーい!オリヴィエ!」
突然後ろから名前を呼ばれた少女――オリヴィエは恐る恐る振り返った。
声の主が金髪に褐色肌の見知った男であることを認めつつ、緊張した面持ちでいた。
「あ、ヴェイクさん…。な、なんでしょうか…。」
頬を朱色に染め小さくなるオリヴィエは、誰に対してもこうである。
特別ヴェイクが怖いというわけではない。
ヴェイクもそれがわかっているので、特に気にもせず、正面に立つと早速話し始めた。
「前にお前が言ってた、何かに心を動かされると感動するってやつ。」
「あ、はい…。」
「今日、偶然鳥の水浴びを見つけたから見てみたんだよ。」
それを聞いてオリヴィエは微笑んだ。
「あ、小鳥の水浴びですか…かわいいですね。」
緊張が解けたかのようなその微笑みに、ヴェイクも気が良くなった。
「ハハッ、まあかわいいとかそういうのはよくわかんなかったけどよ。とりあえず、悪くねぇと思ったぜ!」
「そうですか…。」
「なんだか新しい発見をしたみたいでよ。オリヴィエには教えられたな。ありがとよ!」
白い歯を見せてにかっと笑うヴェイクとは反対に、
「そんな、大げさな…!は、恥ずかしいです~!」
オリヴィエのもともと朱に染まっていた両頬がさらに染まっていった。
「いやいや、本当に。オリヴィエに言われなかったら、気がつかないままだったんだなーってちょっと感動すらしたぜ!」
「そんなこと…!は、恥ずかしいです~~!」
「あっ、おい!」
ヴェイクの言葉についに耐え切れず、オリヴィエはその場から走り去ってしまった。
「…相変わらずなやつだぜ…。」
残されたヴェイクはそのすでに豆粒くらいになっている後姿をただ見送った。
自分用に与えられた天幕に戻ったオリヴィエは、ランプに小さな明りを灯しながら寝台に横になっていた。
頭の中では、ヴェイクとの会話が反芻していた。
そのたびに「恥ずかしいです~!」と叫んで頭を抱えたくなるのだが、それを必死に押さえ込みながら目を閉じる。
ヴェイクの笑顔を思い出し、ほう、と小さく息を漏らす。
なんて純粋で真っ直ぐな人なのだろう。
自分の言葉を覚えていてくださって、それを試してみて、しかもわざわざその時のことを教えてくれるなんて。
とても恥ずかしいけど、なんだか嬉しい。
オリヴィエは起き上がるとランプを手に天幕の外に出た。
今朝降っていた雨は昼間には上がり、今夜は夜空に星が出ている。
綺麗な夜。
どきどきという胸の高鳴りは、夜空を見てなのか、それとも別物なのか。
わからなかった。
fin