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青紫の空に浮かぶのは、綺麗な丸い形をした真っ白い月。
その満月から放たれる白い光は地上の全てを照らし、冷たく、しかし幻想的に創り上げている。
宿屋の一室のバルコニーに佇み、その景色に見惚れているのはルインだった。
短く切り詰められた色素の薄い金色の髪は、月光を反射して微かに輝く。
「何をしている?」
すぐ隣の部屋から聞こえてきた声に、目を向ける。
「レムオン…。」
名を呼ばれた青年もバルコニーへと足を踏み入れ、手摺を挟んでルインの隣に並んだ。
「月を、見ていただけです。」
微笑みながらそうとだけ言うと、ルインの視線は、再び月へ戻された。
レムオンは、少女の横顔を見つめてから、自分も視線を月へと向けた。
夜空にぽっかりと浮かぶ月はそこにあるのが当たり前なのに、やはり美しく、
少女がただじっと見惚れる気持ちが分からなくもない。
先ほどから続いている他愛もない話の間も、その他愛のない話に相槌を打ちながらも。
穏やかな口調で話すルインの視線の先には、白い月がある。
時々、金茶色の瞳をレムオンへ向けて微笑みを見せるが、その微笑みを独占することはできなかった。
「…月が好きなのか?」
ちょうど一つの話に区切りがついたので、その時一番気になっていることをぽつりと尋ねてみた。
ええ、とルインはまた、ふわりと微笑んだ。
「月を見ていると、なんだか心が落ち着く気がするんです。」
「…そうか。」
月が好き。
別に、気にすることでもないではないか。
好きな色とか好きな食べ物とか、その程度ではないか。
そう自分自身に言い聞かせているのに、苛々した気分に陥っていく。
ルインのように月を見ても落ち着かず、逆に何かを急かしているような気分に陥っていく。
そっと手を伸ばしてルインの頬に触れ、強引に顔を向けさせる。
突然のことでびくりと肩を震わせた少女の視線が、レムオンの視線と重なり。
「え?」
と言いかけた唇は、手摺に身を乗り出してきたレムオンの唇に塞がれた。
時が、止まる。
音が、聴こえなくなる。
互いの唇が離れた時、ルインは頬を紅く染めて瞳を瞬かせ。
レムオンは意地の悪い笑みを浮かべて見下ろしていた。
「れ、レムオン……!」
顔を紅くして睨みつけられても迫力はなく、レムオンはそれが愛しくてたまらない。
「お前が月ばかり見ているからだ。」
そしてもう一度、少女を捕らえ、その紅い顔に影を落とす。
月に嫉妬していたなんて、お前は笑うだろうか。
fin