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帰り道にある、長い長い下り坂。
私が一番大好きな瞬間。
ぽっかりと浮かんでいる夕陽は、目の前に広がっている海をオレンジ色に染めている。
その夕陽を見つめて、ラナが思うことは、
(きれいな夕陽だな。)
だとか
(今日も一日が終わっちゃうな。)
ということではない。
視線の先にある夕陽は、ただの夕陽でしかない。
振り落とされないように前に回した自分の腕とか。
頬をくっつけている熱を持った背中とか。
規則正しく聴こえてくる息遣いに、全神経を集中させていた。
「ラナ、しっかりつかまってて。」
帰り道にある、長い長い下り坂に差し掛かると、スカサハは必ずそう言う。
「…うん。」
そしてラナは、自分の腕を取り合い、スカサハの背中により強くしがみつく。
一番大好きな瞬間の訪れに、ラナの心が躍る。
スカサハは慎重に自転車のブレーキをかける。
それでも坂道を下るスピードは速く、髪をなでる風が心地良い。
頬をすり寄せている広い背中は熱くて、少しだけ汗臭い。
それがとても愛しいから、ラナは目を閉じて、この瞬間がずっと続くようにと祈る。
でも、祈りは届かず、いつものように長い長い下り坂は終わる。
細い道を通り過ぎると、藍色の屋根の家が見えてきた。
「着いたよ、ラナ。」
ラナは名残惜しそうに頬を離し、腕を放し、自転車の荷台から降りた。
「また明日。」と、スカサハは優しく微笑む。
額には汗が光っている。
「うん、また、明日ね。」
そう言ってにっこり微笑み、ちょっと間を置いてから、一歩前に踏み出して。
「ありがとう、スカサハ。」
そして、スカサハの頬に、キスをした。
fin