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5つのお題で、現代パラレルなアレユリ。
【 VOID 】様からお借りしてきました。
●現代パラレル設定
01.忘れ物はありませんか?
――PM 18:25――
バッグの中身を全て出し、自分で書いたリストと照らし合わせて確認する。
(うん…大丈夫、忘れ物はないわ…。)
そう自分に言い聞かせてからバッグに中身をしまい込むのだが、
小さな不安が頭を過ぎると再び荷物を取り出してチェックを始める。
こんなことを何度も何度も繰り返し、やっとバッグに荷物を詰め込んだのは、
準備を始めてから何十分も経ってからのことだった。
「大変、もうこんな時間…。」
時計を見ると、約束の時間が迫っていた。
ユリアの頭の中に、一人の青年の姿が浮かび上がった。
向かい合うユリアは頬を染め、真正面の青年は微笑みながら耳元に顔を寄せて
「迎えに行くから。」
と囁いた。
あの時の、甘くてとろけそうな感覚は今でも耳に残ってる。
そして、顔を紅くしながら頷くユリアの頭をそっと撫でたときの手の温かさも。
ふわふわした心地が、不意のチャイムの音で現実に引き戻された。
時計を見ると、約束の時間。
微かに聞こえてくる、車のエンジン音。
―――アレスだ。
「え、えっと…。」
ユリアはバッグを持ち、慌てたように鏡の前で身だしなみを整えてから、部屋を飛び出した。
02.それではいただきます
――PM 19:00――
ことことこと。とんとんとん。
キッチンから聴こえてくる音は、周りの雑音を打ち消して耳に心地良いリズムを刻む。
毎週欠かさず観ているはずのテレビ番組は、今のアレスにとって何でもない。
それよりも、先ほどからずっと続いている目の前の光景に、感動を覚えている自分がいる。
すぐ隣のキッチンで音を奏でているのは、可愛らしいエプロン姿のユリア。
彼女のことをただただ眺めているだけで、幸せな時間だとふと思う。
しかし、眺められているユリアからしてみれば料理どころではない。
包丁を持つ手がぴたりと止まった。
「あ、あの…アレス…。」
「なんだ?」
「あの…そんなに見つめないでいただけないでしょうか…?」
ユリアは顔を紅くして、小さな声で抗議する。
「“アレスはくつろいでて”って言ったのはユリアだろう。」
抗議を意に介さないアレスは、澄まし顔で答える。
「み、見つめられていては落ち着きません!」
小さな子供のように頬を膨らませ、困ったような顔で怒るユリアがあまりにも可愛らしく、
アレスは思わず噴き出してしまった。
「アレス、ってば…!」
そんなやり取りを繰り返しながらも、ユリアの作った料理を前に、二人は小さなテーブルに向き合って座っていた。
白くて丸いお皿に乗っているのは、彼女の得意料理だという『チキンオムライス』。
「アレスのお口に合えば良いんだけど…。」
チキンオムライスと睨めっこし続けているアレスを不安そうに覗き込みながら、ユリアが遠慮がちに呟く。
「………。」
ふわふわの黄色い玉子に赤いケチャップで彩られたそれは、アレスの気持ちをそのまま表現したかのようだった。
嬉しくて嬉しくて飛び上がりたくなるくらい嬉しい、とは今の気持ちのことだろう。
『大好きな彼女が自分のために料理を作ってくれた』というのは、男にとって感動の何ものでもない。
やがて、アレスが溜め息と共に口を開いた。
「…ありがとう、ユリア。本当に嬉しいよ。」
いつものアレスらしくない口調に、ユリアは驚いたように目を瞬かせた。
「…アレスのため、ですから…。」
はにかんだユリアのその言葉も、アレスにとっては嬉しさしかない。
「…いただきます。」
恥ずかしそうにアレスが言うと、くすくす笑いながらユリアも続いた。
03.ワクワクするね
――PM 22:00――
コンビニからの帰り道。
こつこつ、という靴の音が二人分、夜の闇に消える。
街路灯の下を通るたびに、並んだ二人の影が映った。
アレスの右手には、買い物した袋。
左手は、ポケットの中。
左隣には並んで歩くユリアの姿がある。
ちらりと目をやると、ちょうど彼女を横から見下ろすような形になる。
アレスはその身長差が好きだった。
自分の肩ほどまでにしかない小柄なユリアが、ふとアレスを見上げた。
目と目が重なり合うと、ユリアはにっこりと微笑んだ。
彼女がよくやる仕草だ。
「…今なら、いいだろ。」
え、というユリアの小さな呟きの間に、アレスの左手はユリアの右手を捉えた。
「あ、アレス…。」
一瞬目を瞬かせたが、すぐに頬を紅く染めて、ユリアは俯いてしまった。
ほんのりと汗ばんだ手のひらの中にある、彼女の細い指先はかすかに温かい。
てっきり嫌がられるんじゃないかと思っていたアレスは、ほっと胸を撫で下ろした。
普段、一緒に並んで歩くとき、ユリアは「恥ずかしいから」と手を繋ぐのを躊躇っていた。
そんな彼女にアレスも気を使っていたが、やはり「恋人同士」なんだから手は繋ぎたい。
手を繋いで歩きたい。
その思いは、ユリアも同じだったらしい。
躊躇いがちに、ユリアの指先がアレスの手を握る。
互いの温もりが、手から手へと伝わってくる。
顔を上げて笑みを浮かべながら、小さく「ありがとう」と言った。
はたとアレスの歩みが止まった。
それにつられて、ユリアも足を止める。
「どうしたの?」
「…暗いから、平気だろ。」
そう言うや否や、またしてもユリアが小さく声を発した隙に繋いだ手を引き寄せ、彼女の顔に影を落とした。
「!!!」
咄嗟のことに、ユリアは目を白黒させた。
離れたアレスは、いたずらが成功したとでもいうような得意気な顔で笑っている。
「………。」
反対に、ユリアの顔は真っ赤に染まっていて、手のひらの中の指先が震えている。
「嫌だったか?」
首を傾げて、にっこりと笑いながら問いかける。
「…そ、そんなことはない、けど…。」
紅い顔のまま答えるユリアの声は、消え入りそうなほど小さい。
街路灯の灯りしかない夜道に、まるで二人しか存在していないかのような空間。
そんな一時の錯覚に、二人の胸は高鳴る。
「こういうのも、たまにはいいだろ。」
04.もう寝たのか
――AM 01:45――
時を刻む秒針の音だけが響く部屋。
それなのに、ユリアの心臓は部屋中に響いているのではと思えるほど高鳴っている。
大好きな人と部屋に二人っきり。
その部屋は真っ暗。
ともなれば、緊張しない方がおかしいだろう。
ユリアだって、恋人の家に泊まるんだからそれなりの覚悟はしてきたつもりだ。
しかし――。
変に意識していたのは、ユリアだけなのだろうか。
二人は今、同じ部屋で別々の場所で眠っている。
ひたすら断ったのだが、ユリアはアレスのベッドへ。
アレスはベッドの右横にあるソファで寝ている。
なんとなく拍子抜けした感とほっとした感が入り混じる。
枕に乗せてる頭をゆっくりと動かして、斜め右上にいるアレスの様子をそっと窺う。
時計の音に紛れて微かに聞こえてくるのは、気持ち良さそうな寝息。
(…もう、寝ちゃった…?)
寝たと分かると、ユリアはかけてあるシーツを静かに剥ぎ取り、ソファへと近づいた。
息を殺しながらアレスの寝顔を覗き込む。
普段の彼からはとても想像し難い、無垢な少年のような寝顔に、思わず笑みがこぼれる。
金色の前髪が無造作に額にかかり、すうすうと聞こえてくる寝息が愛らしい。
しばらくこの可愛らしい寝顔を眺めていたかったが、ほっと気が緩んだユリアは小さな欠伸を漏らした。
もうベッドに戻らなくては。
「………。」
覚悟というものは、行動するのに勇気を与えてくれる。
と言っても、本人がぐっすり眠っているのを前提に。
「おやすみ、アレス…。」
吐息のような声で呟くと、ユリアはアレスの頬に唇を寄せた。
ちょうど唇が頬に触れた瞬間。
「きゃっ!?」
ユリアの細い手首をアレスが掴んでいた。
突然のことに驚いて、ユリアは動けないでいる。
「ア、アレス、起きてたの…!?」
アレスは上半身だけを起こすと、意地の悪そうな笑みを浮かべた。
この笑みの時、ユリアは何を言ってももう勝てない。
「まったく、ユリアが悪いんだからな。せっかく…。」
強い力で引き寄せられて、ユリアの身体はソファへと沈み込んでゆく。
「ええ?ちょ、アレス、待っ…!」
沈んで、そして―――。
05.目覚めるとすぐ近くに
――AM 07:30――
うっすらと目を開けたとき、見覚えのない景色に疑問を持った。
(………?)
ぼんやりした頭は、身体中の感覚を少しずつ目覚めさせてゆく。
全身を包み込んでいる温もりに、いつもと違う違和感を覚えた。
(そうだわ、わたし…アレスのお家に泊まって…)
覚醒しきっていない頭をゆっくりと左に向けると
「おはよう、ユリア。」
「!?!?!?」
すぐ近く、真正面のアレスの顔があることに驚き、一気に目が覚めた。
身動きが取れないほどの全身を包み込んでいる温もりは、抱きしめられているからだと気が付いた。
それが何を意味しているのか。
ユリアの頬は次第に紅く染まっていった。
真っ直ぐアレスの顔を見ることができず、俯く。
「お、おはよう、ございます…。」
おはよう、ともう一度繰り返し、アレスはユリアの額に口付けた。
抱きしめる腕も、全身を伝わってくる熱も温かい。
「…アレス。もう少し、このままでいて、いいですか…?」
「ああ。」
俯き、小さな声なのに聴こえる距離。
吐息もかかるくらいの、互いの心音が聴こえるくらいの距離で。
二人は再び、眠りについた。
fin